《パンケーキさん》からのお手紙

こんにちは。近衛寮放送室の内容のレベルの高さに怖れを感じながらささやかな感想を私も書いてみたいと思いました。

何回かワンダーウォールを拝見し、なんて完璧な計算し尽くされた脚本だろうと思い、エキストラを含むすべてのキャスト、美術、音楽、猫の鳴き声さえも欠くことのできない、作品のかけらなのだと感じました。
けれどハッピーエンドではない。近衛寮の寮生たちがさびしそうで。冒頭、寮生の弾くピアノからしてさみしい。抗議に行かない寮生たちは三船や志村よりも先に達観してしまったのかもしれない。北島教授がそうであったように、理想を追えば必ず抗えない壁に突き当たる。いくら声を荒げても泣いて訴えても無駄なんだ、と。卒業したら社会に出て、嫌というほど思い知る。だからさびしそうなのかな。(ばんばひろふみの『いちご白書をもう一度』みたいな。)

専門的なことを日常的に話すような賢い彼ら彼女らでさえ、大学を出たら社会に飼い慣らされなければ生きていけないのかもしれない。正しいと思うことよりも経済が優先される、というか、食べられなければ生きていけないのだから。
そんなやりきれなさを暁の茶事が鎮めてくれて、ラストの演奏で昇華させてくれる。

劇場版のラストの字幕は含まれることが多く映像で観たかったけれど難しかったのだろうな。そして2019のさらに人数を増した大きな楽団はもう(意図的に?)ひとりひとりの顔が良く見えない。奏でる音は重層感を増している。その音楽は清い水の流れが金属の固まりになったみたいに。そこではキャストは役を離れている。みんな笑顔。あの笑顔に励まされながら、たとえ理不尽なことがあっても生きていかなければ。大きな力に抗えなくても笑顔で音楽を奏でることはできるのだから。
な~んて考えてみたけれど全く的外れかもしれません。

近衛寮放送室、難しい話だけでなくできたら撮影裏話みたいな話題ももっと聞きたいです。
例えば蓮くんが演技に悩んだのはどの場面なのか?天音くんが大太鼓を叩きながら振り向いて微笑んだのは天音くんのアイデアなのか?北島教授の二口大学さんやテラトポット山村紅葉さんは撮影時寮生役の皆さんとしゃべったりしたか、京都の街中でのロケはどんな様子だったのか、などなど。そんな映画の裏側が知りたいです。この作品が好きだから。

もうすぐ上映期間の終わる劇場も多いですが、なんとかリピートしてからだごと浴びて目と心に焼き付けたいです。
素敵な映画を有り難うございます。

⇨✉️前田悠希監督からのお返事

パンケーキさん、こんにちは。
この度は、近衛寮私書箱へのお手紙、そして作品へのご感想、誠にありがとうございました。

私からは、お手紙の後半にありました「撮影裏話」についてお返事させて頂きたいと思います。

(1)蓮くんが演技に悩んだのはどの部分なのか?
これは本人からの回答を待った方がいいかもしれませんが、一番テイクを重ねたのは、作品の冒頭でキューピーが近衛寮を歩道から見つめるシーンです。あの場面は、観客が近衛寮と出会う初めての瞬間なので、キューピーと一緒にその佇まいに恋に落ちてほしかったのです。だから、キューピーの表情はとても大事で、「どうしようもなく惹かれた」という部分に説得力を持たせる必要がありました。一体どんな表情で見つめればいいのか、蓮くんの中でなかなか掴めずに苦労したようです。「好きな女性に見とれるように」と言ってみたり、視線の先でマサラに手を振ってもらったり、色々と試行錯誤をしました。蓮くんは頭を抱え、道端に倒れ込み、周りのスタッフとも相談しながら、その答えを探していましたね。10数テイクを撮ってOKを出したのですが、その後蓮くんから申し出があって、撮影最終日に撮り直しもしました。実は、「ワンダーウォール」のクランクアップは、あのシーンなんです!

(2)天音くんが微笑んだのは天音くんのアイデアか?
実は、あれは演出サイドからのお願いでした。あの場面で、どうしても志村の笑顔が撮りたかったんです。感覚的な判断だったのですが、彼が笑うことで、何か救いだったり、希望だったりを感じてもらえるのではないかと思ったからです。天音くんはそのアイデアを、とっても素敵な笑顔に昇華してくださいました。あの一瞬の微笑みが撮れて、手応えを感じました!

(3)二口大学さんや山村紅葉さんは寮生役のみんなと喋ったか?
いいえ、撮影現場ではほとんど話していません。これはお二方ともキャラクターの立場上、意識的にされていたのではないかと思います。特に二口さんはかなりの緊張感を持って現場に入ってくださって、寮生役のみんなとは距離を取っていました。その甲斐あって、どちらも素晴らしいシーンになったと思います。

(4)京都の街中のロケはどんな様子だったのか
作中の時制は冬なのですが、撮影したのは初夏の時期だったので役者の周りを冬服を着たエキストラで固めて撮影しました。冒頭の河原町を歩くキューピーのシーンは、撮影初日でしたし実際の街の動きを止めることはできないので、ハラハラしながら撮影しましたね。結果的に、キャスト、スタッフの連携のもとなんとか撮り切れた!という感じでした。