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このあいだ(第001号 2020年10月)

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フリーペーパー『このあいだ』第1号に掲載のエッセイを2本収録しています。
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記事一覧

「子のあいだ」(『このあいだ』第1号 2020/10)

 夜、2人の子のあいだに寝て、 目が覚めているときなど、自分は幸せだなとしみじみ思うことがある。長女は、結婚して9年めの冬に生まれた。 それまでのあいだ、 子どもがいなかったわけだが、 特にそのことを気に病んだことは妻にもぼくにもなかった。 親たちは早く孫の顔が見たかったかもしれないが、 自分たちは経済的事情により子を産み育てることは考えてはいなかった。 それが、ある時期から子どものことを考えるようになって、間もなく妻が身ごもった。天使ガブリエル(*1)は来なかった。ただ L

「四季」(『このあいだ』第1号 2020/10)

片岡喜彦『古本屋の四季』皓星社、2020 『キネマの天地』という邦画を観たことがある。大船撮影所への移転直前の、松竹蒲田撮影所を舞台に、そこに生きる映画人たちを描いた映画だった。 同趣向の作品として 『蒲田行進曲』 のほうが有名なのだろうが、ぼくはそちらをまだ観たことがない。  映画にも本にも記憶に残る部分というものがある。 なかなか全体というものは掴んだり記憶に刻み込んだりするのが難しいものだ。 『キネマの天地』 で私が覚えているのはたったひとつのシーンだけ。 撮影所