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このあいだ(第002号 2020年11月)

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フリーペーパー『このあいだ』第2号に掲載のエッセイを2本収録しています。
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#エッセイ

「ファンタジー」(『このあいだ』第2号 2020/11)

 このあいだ、 ぼくの帰宅前に妻が撮影した、 食事中の娘(4歳)の動画を見せてもらった。  髪を大雑把に結わえられて、 (今もランニングシャツと言うのかどうか)ピンク色の小さな綿の (肌着と言うと年寄り臭いのか)、 袖の少しだけある、 結局よくわからないけれどとにかくこの今しか着られない小さな身を包むものを着て、身振り手振りを交えながらなにごとかを物語っている動画。  妻とぼくの細めた目の中に、 娘の発する 「じつはね、」 だとか、 「と、いうことやねん」 といったことば

「つながりあうイメージ」(『このあいだ』第2号 2020/11)

小池寿子『死者のいる中世』みすず書房、1994 「とくに予備知識の必要はありません」  そう前置きする一般向けの講演や入門書の類は少なくないが、終わってみて「ほんとうに知識ゼロからで何か身になることがあったのだろうか」と反省することもまた多い。なんとなくわかったつもりになって、すぐにこぼれ落ちてしまう記憶に、 自分という容れ物の頼りなさを思う。死ぬときもきっと空っぽのまま、この世に別れを告げるのだろう。死後についての知識など全く持ち得ないままに。  今回取り上げる本も、