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黒い力

伊勢丹の朝は裏が黒い。

荘厳で煌びやかで極彩色な一階エントランスの裏手、煤けたコンクリートと錆び付いたダクトと黒に身を包んだ大量の従業員たちが無言で行き交う路地全体に剥き出しの労働無意欲が蠢いている。

島村大地の歯は落ちた。あたらしい乳歯が生えてくる。

ゆうべ寝る前にインターネット上に書いた文章に15000のいいねがつく夢を見た。起きたら10のいいねがついていて、トトロに会えた気がして目覚めて芽生えたメイのようだと思った大地は宮崎駿が好みじゃない。コンコースでコケた時も、海千山千を海と山の幸が山盛りになった旅館の夕食の形容詞だと思っていたことが予備校の講師にバレたときも自嘲した。

根本的に楽観的なのだ。

明るく振る舞う悲観的な人は目立つが、暗くて楽観的な人は目立たない。朱に交われば赤くなり、赤と黒なら黒になる。色とも取れぬ混濁の黒の力を纏うたび、大地は毎朝元気になる。

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