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『め生える』高瀬隼子

男女問わず大人の髪がごっそり抜けてはげてしまう奇病が定着してしまった社会。そこは、皆に髪があった時代には想像できなかった世の中になっており、それが故の奇妙な事態が数々起こっています。そんな中、例に漏れず髪が抜けていた主人公の女性は、ある日ふと気付けば、自毛が復活しているではないですか。しかし彼女は、周囲の目を恐れて、そのことをひた隠しにせざるを得ないのでした。

まず著者の奇抜な発想には驚かされます。この奇想天外な状況設定も勿論ですが、それが当たり前になった世の中で人々がどのようなことを考え何をし始めるか、まるでどこかで見てきたことのような生々しさです。深刻さと滑稽さが入り混じった、独特の世界が出来上がっていました。

実態としての髪の有無の状態が逆転してはいても、髪はあるべきものと言う価値観は逆転してはいない、中途半端にねじれた状態に人々はあります。髪がなくなったと言う共同被害的な同質性の中にあって、主人公は髪が生えてしまったことの異質性が際立つことを恐れつつも、ふとした時に優越感も感じてしまう、その生々しい心境が何とも面白いです。

そもそも髪がない・髪が薄い人と言う見た目の問題が、当事者にとっては自身の人間性の否定にもつながりかねないことを思い知らされ、私自身が子供の頃から悩まされてきた白髪とはレベルの違う悩みであることを痛感させられました。失礼なことを言った記憶もあって、今更ながら申し訳ない気持ちです。

なお、これでこの著者の現時点で単行本として刊行されている作品は、すべて読んでしまいました。もう今から次回作が待ち遠しいです。

[2024/05/11 #読書 #め生える #高瀬隼子 #U -NEXT ]


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