『あなたの言葉を』辻村深月
著者が「毎日小学生新聞」に連載していた短いエッセイを、時系列で四十数篇ほど集めた本です。
読み手が小学生と言うことで、平易かつ親身な語り口です。しかしその内容は、小学生には勿論ですが、むしろ大人が読むべきものでもありました。読んでいて、深く感じ入るところが多々ありました。
著者が小説家であることから、本や読書に関わる話題も多く含まれます。著者はこの話題について、ご自身が職業的に例外的な立場にいることを自覚しつつ、読書の本質や魅力を実に自然に語っています。何より、押し付けがましいところが全くないのがよいです。
随所で、自分が失ってしまった素直さを思い知らされました。大人になると失われて気付くことさえなくなってしまいがちな感覚を、認識し続けて文章に著すことの出来る著者には、敬意を抱かざるを得ないです。著者ご自身の経験や記憶や考えを、虚飾なく正直に書いているので、共感度は高いと思います。
好きも嫌いも善も悪を含めても一つ一つの時間の積み重ねが自分を作って行く、と私が書くと陳腐な言い方になってしまいますが、著者は心に沁みる丁寧な表現で書いているので、是非読んでみて頂きたいです。
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