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「オッペンハイマー」(2023年 アメリカ映画)

マンハッタン計画すなわち原子爆弾開発プロジェクトを主導したJ.ロバート・オッペンハイマー(1904-1967)の後半生を描いています。圧巻でした。

物語の主眼は、原爆開発のプロセスそのものよりも、米国原子力委員会の長官であったL.ストローズとの対立に象徴される、戦後のオッペンハイマーの政治的な処遇に置かれています。ストローズは、かつてオッペンハイマーを大抜擢したものの、後に私怨からオッペンハイマーの社会的地位を貶めようと策を弄します。オッペンハイマーが窮地に立たされた公聴会での言動から、彼が自ら生み出してしまった核兵器をどのように捉えていたかが浮き彫りになって来ます。そしてその結果として、彼がどのような不遇を被ったかもよく分かります。

登場人物はすこぶる多く、盛り込まれたエピソードも満載で、かつ時系列や場面が行ったり来たりするので、隅々まで完全に理解出来たとも思えません。しかしそれでも、この映画が伝えようとしていた中心軸は確実に届きました。

確かに原爆投下の描写そのものはなく、2つの巨大な箱がサイトから搬出されのを見送る印象的な場面のみです。だからと言って、どこをどう捉えようとも、この作品は核兵器を肯定していません。爆発実験の成功や日本への爆撃成功の報に歓喜する人々の姿は、当時の当事者のありのままの振る舞いです。これを見せ付けられているからこそ、後に我に返ったオッペンハイマーが抱えた底知れぬ苦悩の重みが、ずっしりとのしかかって来るように思います。

その後の世界は、彼が危惧していた通りに、あるいはそれよりも格段に悪い状況になってしまいました。最後にじわりと描写される幻影の恐ろしさを、我々は現実に突き付けられたこととして捉えなければならないです。

[2024/04/06 #映画 #オッペンハイマー #クリストファーノーラン #イオンシネマ春日部 ]

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