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ハーブの慰め

そろそろ春番茶のパックが無くなるので買い足そうと立ち上がったが、少し思案。
そういえば、一度自分で育てたハーブでお茶を飲んでみたいと思っていた。
良い機会なので、自作ハーブティーに挑戦することにした。
静かな古めかしい住宅街を東に抜け、バイパスを渡ったところに、いつも足を運ぶ園芸店がある。

今の時期、園芸店では何となく植物全体が品薄で、コーナーの隅に寄せ集められた小さなハーブ苗達をひとつひとつ、観察して回った。
ハーブに出来る植物は、指で葉っぱを擦ると、指に良い香りが移る。
レモン系の香りがする苗が多かったが、種ごとに微妙に香りが違い、みかん寄りの甘いものや、かなり酸っぱそうなものまであった。

そんな中心に来たのは、パイナップルミント(アップルミントの変種)とヒラリーズスイートレモンという種類で、それらを買った。
帰り際、見たこともない小ささの苗でシマトネリコが叩き売られており、こちらも一緒に持ち帰った。

帰り道、今回の植物たちが、出窓の花畑をきっと更に良い具合に彩ってくれることが嬉しく、その気持ちで溢れていた。
植え替えが済み、出窓に鉢植えを置き、新入りのミントたちを見ていた。

ここまでは非の打ち所のない、幸せな園芸好きの日常の筋書きだ。
ただ自分の身体は不思議なことに、幸せや穏やかさを感知した瞬間に、毎度毎度、神経症の症状が一緒に出てくるのだ。
ミントを見ていたその瞬間に、発作はやって来た。


自分はパニック障害を持っている。
とは言っても、今のところは吐気や動悸などの症状のひとつふたつが、たまに起こるくらいだが。
荒波は過ぎたとはいえ、症状のトリガーが自分をつまんで長い事ぶらさがっており、拭おうとすればするほど、ひどくなる。
そして、用事でも何でも、する事が終わってひと段落した時に、それは決まって現れる。
ゆっくり座っていたいという思いと、動かねばという思いが、両方同じ強さで存在している。
その相反する気持ちが一緒に高ぶった時に、むせ返ったり、息が荒くなる。

どうやら、自分を無理に鼓舞する癖はまだ治っていないようだ。

息も絶え絶え、落ち着くために植物たちを眺めていると、しばらくして発作はおさまった。
すると四方八方から、自然から贈られたであろう癒しの雨を、植物が浴びせてくれた。
何となく幼い見た目のミントたちは、自分を慰めてくれた。
部屋に居る大きな植物たちは、その図体で自分を包容してくれた。

やはり植物には、決して人では体現できない、癒しと包容力がある。

わさわさ映える小ぶりなミント。
もう少し株が伸びたらお茶用に摘みたいところ。
シマトネリコの幼木。

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