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「君は放課後インソムニア」(劇場)感想

「君は放課後インソムニア」(劇場)感想
(2023-06-24 TOHOシネマズ西宮OS・スクリーン4)

 漫画原作の「君は放課後インソムニア」を観てきました。

この作品、原作漫画を単行本1巻の時に読んで好きになってから、単行本出るたびに読んで既刊全部読んでるのですが、その惚れ込んだ作品をいつかアニメ化してくれないかな?と思っていたら、なんと!「アニメ化&実写映画化」がアナウンスされて驚いた次第でした。

まあそれだけ惚れ込んだ原作なので、アニメ化は良いとして実写映画化となると昨今の邦画の「漫画実写化」映画のクオリティを考えると「どうもなぁ」と思っていました。

ところが。

予告編が発表されるやその考えは一変しました。予告編で描かれる映像の空気感と主人公を演じる2人の雰囲気やルックスが原作そのままで、あまりにも映像が見事だったから「これはもしや?」と大きく期待したのです。

 そして完成した本編を実際に映画館で観てみると…

なんだよ、期待してた100倍良かったじゃねえかよ!とwww

ほんと、あの予告編で確かに期待値は高まったしかなり完成度の高い映画になってるだろうなとは想像出来たけど、まさかの後半ずっと泣いてて鼻水まで出たほど泣けたって予想外な見事さだった。

原作1巻からの長らくのファンで「この雰囲気は漫画だからこそ緻密に丁寧に描けるもので、映像化するならまずアニメじゃないと無理で実写化は確実にそれに及ばないだろうな」と思っていた。

そしたらまさかの「実写映画版」>「アニメ版」の完成度だったんだよw
決してアニメ版のクオリティが低いわけじゃないんだけど、実写版があまりに完成度が高すぎたわけで。

これはもう原作1巻からのファンだけど大満足の映画化だったよな。いや、それだけじゃなく2023年上半期のナンバー1だよ、と思った。

 作品としては非常に地味でスローに流れる話なので、前半は原作知らないと「なんだか地味な映画だな」と思ってしまうかも知れない。

しかし、後半になって幾つかの出来事があって主人公2人のそれぞれの悩みと苦しみが分かってきて、その時点で原作知っててももうボロボロ泣けてきた。途中で出た涙はずっと止まらず、ラストまで続いていたわけで。

勿論、原作がまだまだ続いていてこれ以降の物語も実はあるのはあるんだけど、ひとつ大きな区切りとしてああした形でエンディング描いていたのは上手かったと思う。

この作品、予告編を観る限り高校生男女2人の物語に見えるけれど、学園生活部分でのクラスメートの数人の男女、養護教諭の先生、OBの先輩、主人公それぞれの親と、複数の人間が絡む群像劇であり特に学校が舞台で部活をやる部分も大きいので「青春群像劇」としての位置づけが大きいと思う。

同時に最高に胸キュンの「恋愛モノ」であり、それぞれの家庭の問題や人生も深く関わる「人間ドラマ」としても見事で、それらが複雑に絡みつつ見事に一本の映画として完成していると思う。

「恋愛モノ」としては胸キュンだしドキドキだし、デートシーンじゃないんだけど花火シーンの素の2人の俳優の声って感じの感激のセリフとかが初々しい上に背景の花火も超絶美しかったな。

人間ドラマとしては、前半意味わかりにくいかも知れないけど中盤以降次第に分かっていく2人のそれぞれのドラマが深く刺さってきてもう泣かずには居られなかったな。

勿論、長い原作を纏めているので原作ファンとしては「白丸先輩とのあれやこれや、クラスメートの女子3人とのあれやこれやの絡みをもっと入れて欲しかった」とかも有るけど、これは無いものねだりで(^_^;)
全部詰め込むのは無理な中で非常にうまく取捨選択していた。

その意味では、原作小説・漫画・アニメを実写映画化する時の見事な成功例の一つだと思う。
完成された映画は「原作読んでるファンだけが楽しめる実写版」とかじゃなく、原作読んでなくても一本の映画として楽しめる完成度と内容の高さだったと思うので迷わず今年の暫定ナンバー1映画と認定しました(^_^;)

 内容の良さは「ネタバレ」以降で書きますが、まずは俳優から。

  丸太と伊咲を演じる奥平大兼と森七菜のルックスと纏う空気感が完璧だった。

奥平大兼のルックスは一瞬「違うかな?」と思った所もあるんだけど、映画を観ると原作そのまんまの雰囲気で喋り方で、冒頭のちょいコミュ障ですぐキレる感じとかから、みんなと上手くやっていく流れと変化は見事だった。

それ以上に良かったのが伊咲を演じる森七菜!

予告編の時から「これ、どう観ても曲じゃねえかw」と思うほどハマっていて、コスプレとかなんとかじゃ全く無いのに最初に夜に私服で丸太と待ち合わせした時のオーバーオールの姿が伊咲以外の誰でも無いって雰囲気が惚れてしまった。

あと海を挟んだ向こうの堤防で落ちるなよって感じで足を上げて元気にはしゃいでる姿も、もう完璧に伊咲のキャラだったよな。

あとクラスメートの女の子3人も原作のイメージ通りだったけど、特にソフトボール部の日焼けしてボーイッシュな感じの彼女が、漫画からそのまんま抜け出して来た感じで演じていた女優さんには感謝しか無い見事さだったな。

ルックスだけだと白丸先輩と倉敷先生は漫画のイメージとはかなり違うルックスだったけど、演じるキャラは完璧だったので違和感無かったな。個人的にはもっと白丸先輩が丸太と伊咲のイチャコラに「いやらしい!」的なシーン入れて欲しかった気はするが、まあ仕方ないw

大人たちを演じる俳優ではMEGUMIと萩原聖人も見事だったけど、伊咲の子供時代の友達の母親を演じた田畑智子さんが、登場場面少ないんだけど見事な存在感と演技で感動して泣かせてくれたなぁ。

あと出演していると知らなかったでんでんが、資料館の館長を飄々と演じていたのと語る話の深さに「ほほう」と感動してしまった。「あれ?原作にこんなキャラ居たかな?」とは思ったのだが。原作パラパラとめくったらオリキャラだったな。でもめちゃくちゃ良かったよ。

 次に映像。

原作がそもそも石川県の七尾市という実在の都市を舞台として能登半島の各所を巡る部分もあるのですが、それを現地でロケした風景が非常に良かった。

原作やアニメで既に観た風景が実際に実写として(漫画とアニメがそれを元にしてるんだから当たり前だけどw)眼の前のスクリーンに広がったのは「ここ、行きてぇ!」と心の中で叫んでしまうほど見事だった。

あと邦画によくある映像の平板さ(撮影のせいなのか、TVドラマのスタッフとかが多いせいなのか)が無くて、全体的に奥行きと重厚感が感じられる映像作りにしていた点、特に夜中や明け方の空気感の見事さは他の邦画の娯楽映画も見習って欲しいほどだった。

個人的にはみんなが渡ってたあの橋のあたりは行きたくなったなぁ。たぶん行くだろう。いや、行こう!と。
遺跡の所はかなり離れててバスか車じゃないと無理なのかな?映画のようにバスで行けるのなら行ってみたいけど公共交通手段無いのなら無理かなぁとか(^_^;)

 映画の内容的には少し違うんだけど、この映画を観ていて「恋は光」と「いなくなれ、群青」を思い出した。

「恋は光」は実在する都市がロケーションされていて、恋愛ドラマ・青春群像劇て点がイメージ重なったのと、本作ともども「これ観たらヒロインの女性に惚れてしまうだろ」って主演女性の女優さんの魅力とキャラの魅力がお大きかった点が重なりました。

「いなくなれ、群青」は青春ファンタジー・ミステリーなので全く違うジャンルの作品なのですが、原作ありの作品を実写映画化したもの、主人公が高校生の男女、学園が舞台の青春要素などが重なる点もあるのですが、邦画には珍しい映像の重厚感がロケーションの良さと相まって素晴らしかったって点も本作と重なった所はあります。



※以下、ネタバレがあります。



 後半、泣けるポイント山ほどあったんだけど書き出すときりが無い(^_^;)

 丸太と伊咲が撮影旅行に行く時に伊咲の姉ちゃんが保護者として付きそうのだが、彼女がヤンキーな感じでウザいけれど、そのウザさは実は伊咲を特別扱いしないって事で成立していた彼女なりの思いやりだったのが分かる。

そして去る時に姉が丸太にタッチして「その役目をバトンタッチしたよ」って表すシーンに泣けてきた。

この展開だと、普通は病気がちで特別扱いされて両親の愛情が全部向かった妹に対して、放ったらかしにされた気分の姉が妹へのヘイトを高めてしまう事になるパターンが多いんだけど、そうじゃなくて彼女なりに妹が好きなので特別扱いせずがさつだけど愛情のあるイーブンな接し方をしてたんだろうなと。

伊咲がお姉ちゃんと一緒の時にだけ見せる顔や声の「素」の部分がまた良かったし、兄弟・姉妹ってこんな感じだよなって口喧嘩してるシーンみてて「あるある」と思ってしまった。

そして伊咲が子供の頃に同じ闘病仲間だった子のお母さんに会いに行くシーン。伊咲が「正直、来たく無いときもあった」と本音を喋ってから、自分がいつもここに来て笑顔で居たのとは違って苦しみも含めてぶつけて涙して、おばさんが抱きしめてくれるシーンは、彼女の病気の話が絡む中でも一番泣けたかも知れない。

原作でもアニメでも良い場面だった、観測会が雨で流れたあとのバス停のシーン、映画で森七菜さんが演じる伊咲が丸太を軽く出し決めて自分の心臓の音を聴かせて自分の病気の事を話すシーンも美しくて感動的で泣けてきたな。

最後の伊咲の家で彼女の母親に拒まれながらも頭を下げて、そして伊咲に写真の事を伝えられたシーンも良かった。

 エンドロールで再び計画された観測会の様子、それが無事実行出来た様子が描かれていて、正直この辺りは流すんじゃなくてちゃんとドラマとして撮って欲しかった点はある。

伊咲が入院するって事だったら、その後どうなったのか?どれくらいで退院して元の生活に戻ったのか?観測会にどれくらい関わったのか?も観たかったし。

だけど映画の上映の尺の加減で無理だったんだろうな。この辺りは原作ありの作品の映画化では無いものねだりと言うものだろうか(^_^;)

エンドロールで観測会の様子が流れていたので、多分エンドロール後にワンシーンあるだろうな?と思っていたら、予想通りにあった。

これ、予想出来てなかったのか何人か、比較的多くの観客がエンドロール始まった所で帰っちゃったな。最後まで見てもらえなくて残念だったのと同時に、個人的にはエンドロール開始してすぐ帰る人は(全員じゃないだろうけど)この映画に感動出来なかった、ハマら無かった人じゃないのかな?と思ってしまうので、その点での寂しさもあったか。

個人的にはエンドロールの風景と、そのエンドロール後のシーンの仕掛けがあろうがなかろうが、この作品の後半の感動シーンの連続に心が揺さぶられて、エンドロール終わって場内が明るくなるまでは感動に浸って席が立てなかったと思うな。

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