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「付き合ってあげてもいいかな 9」(たみふる)ネタバレあり感想

※以下、ネタバレありの感想です。



 さて最新刊9巻の感想です。

すでにアプリ版で最新話まで読んでるんだけれど単行本で再読してもやはり感動するんだよな。見事な話で。

この巻では、付き合い始めたみわと環ちゃんの関係性がより深まっていく所と、既に付き合ってる冴子と優梨愛の関係がさらに深くなっていく様子が描かれる。

しかし、一番素晴らしかったのは冴子のお母さん視点の物語だよな。

これは作者のたみふるさんの作家としての腕がいかに見事なものか?をより実感させてくれる素晴らしさだった。作者自身が主人公らと年齢の離れていない若い人なんだろうと想像するんだけれど、母親世代の心理とドラマをここまで見事に描いているってのが素晴らしかったな。

 まずはみわと環ちゃんの話。

個人的には環ちゃん推しなのでみわと環ちゃんが恋人同士として本格的(?)にデートを重ねて体も重ねていく様子にはニヤニヤとして嬉しく思ってしまった。

みわは環ちゃんに「いって」欲しいと思っているんだけど、それがまた空回りして環ちゃんを朝までずっと攻めてたっぽいんだよな。いやそこは以前、冴子と付き合っていた時も冴子が「されるのは嫌」と言ってたのにしつこく攻める方を求めてやっと攻めたんだけど下手で怒られてたじゃないか?とw

気持ちは分かるんだけど、テクニックが付いてってないのと環ちゃんの求めている所と自分の攻めたい気持ちとのバランスで「適度」に行くべきだったろうな。

みわ、ベッドの上での関係性の構築は相変わらず下手なんだよなぁと(^_^;)

それよりも名前の呼び方問題で、環ちゃんが「みわ」と呼び捨てしたのを何度も求めてて、自分は環ちゃんを「環先輩」と言って抱きしめてる姿が可愛すぎたな。その後「え?できるのかな?」と思うみわの考えとは違って、2人でドラマ観て夜を過ごすのも微笑ましかった。



 一方の冴子と優梨愛。

冴子が中学時代の同級生と偶然出会って、そこに優梨愛も居合わせて冴子の感情が激しく揺れ動いちゃった所を見てしまう。

部屋に戻って冴子が優梨愛に抱きついて「頭なでて」と言った事に優梨愛が「よ~しよしよし」となでくりなでくり繰り返してるのが可愛くって優梨愛の冴子に対する包み込む愛情が感じられてにんまりしつつ感動したな。

この出来事があった後に優梨愛が冴子を「攻める」場面があるのだが、自分が攻められるのを客観的に見てしまって攻められるのは嫌だ、恥ずかしいと言っていた冴子が恥ずかしがりつつも優梨愛にされて感じているってのは、心理的な壁が優梨愛によって崩れたのかな?と思う重要な部分だったかな。

 さて本巻一番の感動部分が冴子の母親視点の物語。

冴子が自分の中学時代の出来事を語らない事が続いてて、優梨愛には8巻で、そしてみわにはこの9巻で語り始める様子が描かれるんですが、肝心の話している内容が描かれていない。

その部分を補足するのが実は冴子の母親の回想シーンなんですよね。

冴子が生まれてから幼女時代のお母さんの想い、「小憎たらしくて、生意気で、でもそれ以上にかわいくて仕方なかった」って言葉に愛情の大きさが感じられて、そして娘の悩みを聞いて「あんたが誰を好きでも、あたしは応援する」の言葉、幼女時代にお風呂に入れている回想シーンと共に「お願いだからあんた、せめてずっと笑顔でいて」のモノローグ、これにガツンとやられて泣けてしまった。

ほんと切ない。

お母さんとしては振袖を冴子に着てもらいたくてしつこく言ってくるんだけど、その時に「娘の花嫁姿と孫の顔を拝む夢を諦めたのよ」と言う。

この場面に関して作品の感想で多かったのがお母さんに対する批判です。

個人的には、第三者として考えるとお母さんのこの願いを口にした場面は、冴子の気持ちを考えてない言葉だとは思ったんだけどお母さんを非難する事は出来なかったんですよね。

何故かと言うと、もし自分が冴子のお母さんの立場だったら全く同じ事を言っていたんじゃないかな?と思うからです。あるいはお父さんの立場だとしたら「お母さんの気持ちも考えて振袖姿の前撮りだけでもしてあげろよ」と、お願いよりも「命令」に近い言い方をしちゃってたんじゃないかな?と思う。

なぜならば「だって着て写真撮るだけの事だろ?」と思っていたからですね。

でも、冴子は中学時代の出来事があってより慎重になってるのもあるだろうけれど、彼女自身の精神的な志向や安定性が「振袖を着たくない」って方向性を向いているので、その気持を尊重すれば無理強い的な言い方はダメだったんだろうと思う。

先に書いたように自分は冴子のお母さんと同じ気持ちになってたので、読んでても「成人式に出なくても振袖姿の写真撮りだけならかまわないじゃないか」と思ってしまったんだけど、多くの感想を目にして、そういう考えがLGBTの人たちの気持ちを辛くさせてしまってるんだなと思った次第。

それで冴子の気持ちも分かるんだけど、お母さんの気持ちもなぁってなってる所に例のみわと雪合戦した後に家に帰ってきた冴子をお母さんが抱きしめて何度も「ごめんね」って言うシーンに泣けてしまったんだよな。

 さて話は最後に「みわと冴子」に戻って。

この巻でようやく冴子はみわに過去の事を話す(と思われる会話の端緒が見れるだけで実際に話している様子は描かれないが)んだけど「それを付き合ってる時にやってればなぁ」と思ったものの、実際には別れてまた友達として付き合い初めて、互いの距離感が親友になったればこそ語れたって部分があるんだと思う。

口喧嘩しつつ作った謎チャーハンが謎に美味い所だったりする笑いも入れつつ、そして…

帰りがけの冴子の背中にみわが雪の玉を投げて突然始まったこれまた謎ルールの雪合戦。

その最後にみわと冴子のそれぞれの笑顔がアップで1ページずつ使われた見開きページ!これが素晴らしいんだよな。

最新話第86話のグータッチのシーンと並んで、みわと冴子が互いに別れを経験したからこそ到達する事が出来た阿吽の呼吸の親友関係。

その見事さと美しさがこの見開きページの2人の笑顔に全て現れていて感動してしまった。

 この巻ではあと、カラオケ店でみんながみわの事をあれこれ言ってる事に冴子がマジレスしてるシーンが非常に印象的でした。

この作品、女性同士が付き合う事に対して周りの大学生たちが批判的な事を言ったり揶揄や差別的発言を行う部分が非常に少なく(無いわけでは無い)、逆に周りのみんなが一般の平均以上に物分りが良くて2人の関係性を認めて普通に接している感じが強い。

この点で、読者の中には「現実にはそんな上手くいかないよ。ご都合主義だよ」と思っている人も多く居ると思う。

しかし私はこの点に関しては非常に好感度を高くしているんだよな作者に対して。

確かに現実は厳しいものであり志帆先輩が言っていた通りの世の中であるとは思うんだけど、創作の世界が必ずしも現実を反映していなければ行けないとは思わない。それどころか「現実が厳しいのだから創作の世界には優しい世界があってもいいんじゃないか?」とさえ思っている。

そして本作では、単に優しい人・物分りが良い人・理解してくれる人たちばかりではなく、最初から疑問視して厳しく突き当たってくる感じの完先輩や、環ちゃんに「マジで無理」と断言していた凪ってキャラも居る。

ただ、その点で言うと完先輩がシリーズ通して一番性格悪くて嫌いなキャラクターだとは思うんだけど、それがドストレートに主人公たちのドラマに絡んできて彼女たちの行く末を左右するって事がなかったのが良かったかな。

あと「現在」では周りでそういう人は少ないんだけど、冴子の過去には周りの言動で彼女がいかに傷ついたのか?が描かれているし。

その意味では全く無い訳じゃないんだけど、比較的そういう描写が少ない中だったのでこの巻のカラオケ店でのあのやりとりは久しぶりにキツく感じられたか。

本巻の最終話、「えええ!どうなっちゃうの?」ってクリフハンガーで、私も配信で読んでたんだけどこのエピソードの終わり方は「ああもう直ぐに続き読みてぇ!」となって次話が待ち遠しかったな。

これ単行本でしか読んでない人は次巻がおそらく来年2月って事で、それまで半年間悶々として過ごすことになるんだろうな(^_^;)

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