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おろかものとおろかもの 15

おろかものとおろかもの 15

難民認定された佐藤には番号が与えられた。
合衆国及び国連指定難民・N145675号。
無機質なこの番号のお蔭で、とりあえずの医療措置と配給、家族・親類の捜索願いが無償で行わてれている。
中華街で疲弊していた5日間のことを考えるとここは天国だった。
人間は秩序が保たれれば、心に平穏を取り戻すし、前向きに生きようとする。佐藤は様々な手を使って捜索や、西日本への探索を試みた。
マギーの持っている情報は海外のニュースサイトで記事にされている話と類似していて、それ以上聞き出すことは出来なかった。何か知っているのかもしれないし、知らないのかもしれない。
とにかく、佐藤は神戸に向かいたいことを難民事務所に何度も依頼した。人口を移動させたいのなら、うってつけだろう。事務局の人間たちは決してイエス、と言わなかった。
神戸はあくまで人民解放軍の「臨時統制化」にあり、合衆国軍の統治とは完全に切り離されているようだ。どうやら、そう遠くない将来、合衆国と中国で、日本を2分割統治しよう、という目算があるらしい。

ゆくゆくは、大国2国間で分割統治しましょうということだ。
半島系・大陸系軍閥や自衛隊が蜂起して奪い取り、戒厳令を敷いている地区なども含めると、2021年春の日本は奇妙なモザイク状になっている。
そう上手くいくとは思えない。何よりそこには「日本人」主体はない。


合衆国・国連軍統治下の中にいる佐藤は、神戸や福岡、一時的に中国統治政府の首都となった沖縄などには、難民として移動することは出来ない。
難民は東海の一部・関東・北陸・東北の港湾を中心に、各地区へと「移送」されていった。
佐藤の移送が決まった。明後日にいわき市に行くことになる。

お別れの挨拶をと、マギーの元に行った。なんとマギーもおなじいわきに異動が決まったという。
嬉しい偶然を二人で喜び、汚染を唯一免れた東北随一の都市での再会を約束して、その場をあとにした。

この後、あのような形で再会することになるとは、この時の二人には全く想像することは出来なかった。

現代版 打海文三『応化クロニクル』を書こうとふと思いたち、書きだしました。支援・応援は私の励みとなります。気が向いたら、気の迷いに、よろしくお願いします。