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おろかものとおろかもの 20

海斗はジープに入れられてすぐ、黒いテープで顔をぐるぐる巻きにされた。
目の前が見えない。辛うじて鼻で呼吸が出来るくらいだ。

後部座席には男が3人、海斗を真ん中にしてぎゅうぎゅうのすし詰め状態で座っていた。腹部にはAKのの銃口が当てられていた。左隣りの男は小銃を抱えるようにしながら持って、海斗をじっと睨んでいる。

海斗は冷静ではいられなかった。頭に血が上ったままで、暴れようとしたが、自分よりも屈強な男に両側からがっしりと腕を捕まえられ、もがけばもがくほど強く押さえつけられてしまった。
しばらく体を抵抗させていたが、自分の頭が冷えていくのと同時に、抵抗することを止めた。

海斗は鼻で呼吸をしながら、自分を落ち着けようと思考し始めた。
相手は北朝鮮軍なのか?
なぜ市街の方まで入ってきている?しかもこんなに白昼堂々と?
圭吾叔父さんは撃たれていたが、無事なのか?
そもそもこいつらの目的はなんだ?

思考すればするほど、海斗は今の自分が置かれている状況が分からなくなってしまった。

カタコトの日本語が海斗のこんがらがった思考を遮断した。助手席からだ。先ほどコウソクを宣言してきた男だ。

「アンシンしろ。殺すことはしない。だから暴れるな。」
アンシン出来るか。海斗は心の中でつぶやいた。

睨み付ける海斗に、どうやらリーダー挌の朝鮮国籍らしいその男は、ジョンファンだと名乗り言葉を続けた。

「われわれは北朝鮮義勇軍の一員だ。二ホン解放戦争を続ける為に、ニホンジンの若いシガンヘイを探している。お前にはてきせいがあるようなので、いっしょに来てもらう。」

決まりきった科白なのだろうか、淡々と、海斗に説明をした。

「今から義勇軍キャンプへと向かう。そこでヘイタイになってもらう」

ジョンファンと名乗った男はそう言ったきり、言葉を発することはなかった。

どれくらい走ったのだろうか、テープで顔面を封じられて、車外の情報がない海斗には時間間隔がなくなっていた。
車内から出され、ようやく外の空気を吸うことが出来た。肌から感じる風はひんやりしていて、海斗はすでに日没に近いくらいだと感じた。

ドアが開く音がして、海斗は後ろから突き飛ばされるように部屋に入れられた。そこでようやく、顔のテープを誰かに剥がされた。2本の手でテープを剥がし、誰か別の手が海斗の肩を押さえつけるように固定する。

部屋の蛍光灯の明かりに、一瞬くらっとなる。しばらくして、ようやく目が慣れてきた。
辺りを見回す。男、いや、少年が5人くらい。小学生くらいの子供もいる。
皆テープで目隠しをされて、拘束された時の海斗と同じように後ろ手に縛られている。

テープを剥がした両隣を見る。二人がかりで取ってくれたのか。

黄色のマニュキアが塗られた手がまず目にはいった。
女の子が二人。
顔に視線を向ける。
人形のような整った顔立ち。ショートボブに切りそろえられた髪型。
袖丈が短めの紺のTシャツに、デニムのショートパンツ。
胸にたすき掛けで掛けられたアサルトライフル。

見たところ歳はそんなに変わらない。彼女達だけ何故拘束されていないのか?なぜ武装している?
まるで値踏みをするかのように、海斗をしげしげと眺める4つの眼。

「ようやくつかえそうな子が来たね、桜子」
「ようやくつかえそうな子が来たから、そろそろはじめようか、椿子」


言葉の真意を分かりかねながら、海斗はただ黙ってこの双子の姉妹を見ていた。

現代版 打海文三『応化クロニクル』を書こうとふと思いたち、書きだしました。支援・応援は私の励みとなります。気が向いたら、気の迷いに、よろしくお願いします。