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おろかものとおろかもの 3

ミサイル発射の原因は、依然としてはっきりしない。嘘のような話だが。


国連調査団の報告書によれば、朝鮮半島北部の軍事政権独裁者の暴走、という公式見解がすべてを説明しているように思える。しかし、彼の国は指導者を交代しながら、経済制裁を受ける一方で軍事開発を進め、周辺諸国との緊張状態は何十年も続いていた。皆がこのままの状態が未来永劫続いていくのだ、という錯覚を覚えるほどであった。


人間は結局臆病で、変化を伴うことを嫌い、現状維持が出来るのであれば多少の不快感は厭わない、だからこのままなんだ、皆がそう思っていた。
それでも暴発は起きた。
公式見解は前述の通り。しかし実は、いつ、誰がどのタイミングで、ミサイル発射のゴーサインを出したのか、ということははっきりしていない。指導者に最終責任が課せられたが(本人はその後しばらくして、合衆国軍の特殊部隊により暗殺)、この愚鈍な指導者がいついいつに指令を出した、という公式記録は存在しない。証言のみである。


独裁国家でありながら、高度に硬直した官僚国家であったかの国には、通達文書や行政文書が数多残されているにも関わらず、だ。
経済摩擦を原因とした合衆国、大陸諸国の陰謀や裏工作を主張する識者もいる。国際的なテロ組織、秘密機関の暗躍、サイバーテロ、若しくはヒューマンエラー。何か重大な出来事が起きた時に、人は原因を一つに求めたがる。しかし、世界はもっと複雑で、重層的だ。これだけのクライシスが起きても、原因の究明は依然として進んでいない。
はっきりしているのは、ごく普通の日常が、日本が、突如として壊れ、誰も、どんな国際機関も修復出来る状態ではなくなったということだけだ。
国連も合衆国も、大陸諸国もこの混乱はすぐに収束するだろうと思っていた。世界に名立たる経済大国であり、立法機関も行政機関も高度に組織化されたいち国家が、首都圏や原発への爆撃だけで壊滅するとは考えられない、と世界中が考えていた。
繰り返す。世界はもっと複雑で、重層的だ。物事は少しの要素の加減で多方面に問題を孕む。列島は混沌の渦の中に沈んだ。


現代版 打海文三『応化クロニクル』を書こうとふと思いたち、書きだしました。支援・応援は私の励みとなります。気が向いたら、気の迷いに、よろしくお願いします。