1冊目:『空白を満たしなさい』(平野啓一郎)
今年こそは、本を読む習慣をつけたい。
毎年恒例ながら年末年始の休みに思い立ったので、勢いそのままにnoteを再開する。忙しいとつい、SNSでの短文や音楽など、気軽に触れられるものばかり取り入れて、労力のかかる読書や映画鑑賞はしなくなるもので。
しょうがないよなぁという気持ちもありつつ、本や映画は自分の身になり、人生に厚みをもたらしてくれると思うので、しっかりと習慣にしていきたい。目指せ年間50冊・50本。
1冊目は、平野啓一郎さんの『空白を満たしなさい』。
『空白を満たしなさい』(平野啓一郎)
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あらすじ
世界各地で、死んだ人間がよみがえる「復生者」のニュースが報じられていた。生き返った彼らを、家族は、職場は、受け入れるのか。土屋徹生は36歳。3年前に自殺したサラリーマン、復生者の一人だ。自分は、なぜ死んだのか?自らの死の理由を追い求める中で、彼は人が生きる意味、死んでいく意味を知る―。私たちは、ひとりでは決してない。新たな死生観を描いて感動を呼ぶ傑作長編小説。
物語は、徹生はなぜ死んだのか真相にたどり着く前半部分、真相が分かった後に徹生はどう生きるかを描いた後半部分と、全体を通して緊張感を持ったまま進んでいく。先の展開が気になり久しぶりの長編小説ながら2日で読んだ。
自己啓発書やビジネス書は、生きてく上で役に立つ「即効性のあるノウハウ」を与えてくれる。一方小説は、即効性はないことが多いが、人生の根底にどっしり構える「指針」を与えてくれる。そんなことを本作を読んで改めて感じた。つまり、小説ってすごい。
この作品が教えてくれる人生の指針、それは「分人主義」という考え。
分人主義については色々なところにまとめられているので詳しい説明はそちらを参照してもらえればと思いますが、簡単にまとめると、人格を分けられず一貫性のあるものとする「個人」("in"dividual)という概念に対して、接する人ごとに、異なった自分を容認する「分人」(dividual)という概念を持つこと。
この分人という考えにより、「本当の自分はどんな人間か」というような固定的な考えを持つ必要はなくなり、対人関係ごとに、異なった自分(分人)を許容すればいい。「自分探し」から解放され、少し楽に生きることができるようになるんじゃないか。
最近読んだ著作の中で、心理カウンセラーの下園壮太先生が提唱している「大人の心」の「自分の人格に一貫性を求めなくてもいい」という考えとも合致していて、色々な自分を許容することは、人生で追い詰められないために大切なんだなあと思った。
また本作で、もう一つ得られる人生の指針が、「過去との向き合い方」。
『マチネの終わりに』では、「未来は常に過去を変える」という象徴的な言葉が出てきたが、本作でも登場人物が、自分の過去とどう向き合い、受け入れ、乗り越えて行くかが描かれており、前向きに生きるエネルギーをもらうことできた。
自分の幅を広げてくれる「分人主義」という考え、過去を受け入れて前向きに生きる登場人物たちによって人生の可能性を横にも縦にも広げてくれる一冊だった。
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