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【詩】ぼくたちの叙事詩

ぼくたちは足跡しか残せない
右左
前足後ろ足
それぞれに肉球をちりばめて

ぼくたちにだって
歴史はある

太陽が輝きだしたころから

落ちる夕日は記憶を愛撫し続けて

ぼくたちは
遠い世界を耳の中のポケットに
しまいこんできたけど
それは
ただ
この叙事詩を受継ぐため
次に叙事詩を受け渡すため

いつでもそのつもりだけど

砂の上の足跡のように
風に吹かれて
はかなく消える運命のように

だからぼくたちは
大理石に
ぼくたちの足跡を
刻み込もうとした
それでも
時はぼくたちの足跡を
風化させ

そうなんだ
この眠っている間にも

足跡なんて夢と同じ

伝えたかった叙事詩は
消えていくけれど

言葉は時の水溶液に
溶けてしまうけれど

ぼくたちの叙事詩は眠っている

見えるだろ
解るだろ

この世の創造物の中で
最も美しく
最も夢見がちな
この種族の
永遠のテーマは
誇り高く生きること
誇り高く死ぬこと

ああ
またひとりが朽ちた

彼が残した足跡も
やがて消えるだろう

左に三本のぴかぴかのひげ
右に三本の話好きのひげ

彼が残したものはそれだけだ