私だってステージで輝きたい!「一夜限りのショーガール体験」
「きっとゆうこさんは好きそうだと思う!」
ひさしぶりにお会いした方より、私はとある催しの猛プッシュを受けていた。それは、たった1日でメイクや振り付けを行い、ステージに立ってお客さんに見せるというエクストリームなイベント「一夜限りのショーガール体験」というものだ。
ショーガールと私には、切っても切り離せない関係がある。2年前の誕生日、歌舞伎町の老舗ホストクラブである「クラブ愛 本店」をレンタルしてイベントをやろうと試みたのだ。
ホストクラブということで、最初はキャバ嬢の出で立ちで登場しようかとも考えたけれど、それよりもっとやってみたいものとして思い浮かんだ絵が、ショーガールであり、キャバレーという空間だった。もともと5年以上のストリップの観客歴があり、レトロな劇場空間が好きだったという背景もある。
私が実現したいショーガールとは何かを具体化した結果、それは「バーレスク」という言葉に集約されると気づいた。コルセットにふわふわのスカート、網タイツにハイヒール、そしてグローブ。衣装をひとしきり揃え(だいたいAmazon)、歌舞伎町の写真館で「バーレスク風で!」と伝えて写真を撮ってもらい、映画『バーレスク』の曲を歌えるように練習した。
そうして生まれたのが、一日限りのキャバレー「キャバレーゆうこ」だ。
キャバレーゆうこは、70人以上を動員し、大成功を収めた。開催中の写真をタイムラインで見た多数の方から、後に「キャバレーの人ですね」と声を掛けてもらえるくらいには、評判が広がっていったのだ。
2019年は、キャバレーゆうこをはじめ、個人サークルとして同人イベントに出たり、コスプレをしたり、ホントは憧れていたけど自分とは縁遠いと思っていた世界を「実現していいんだ」と思える体験が続いていた。その勢いに乗り、2020年の誕生日では「もっとすごいことをやろう」と秘密裏に計画をしていたものの、すっかりイベントどころではなくなってしまったのである。コロナ禍において、素人がイベントに出たり、主催したりするのは本当にリスクがあり、厳しい。
話をショーガール体験に戻そう。ショーガール体験は、バーレスクが楽しめる新宿のお店「AFTER PARTY TOKYO」が主催するイベント。衣装を決め、ヘアメイクをし、振り付けのレッスンをし、観客を入れてショーをするというもの。グループで踊る場面もあれば、1人で踊る場面もあり、合計3分ほどの尺を踊ることになる。事前共有してもらった動画を見て「こんなのできるだろうか」と心配になった。自分で髪やメイクを整えるのに自信がなく、ヘアメイクをお願いするプランも申し込んだため朝からの集合となる。コロナですっかり体力が失われたのか、イベントに1日参加することを思うと体力が持つか心配だった。
当日、ヘアメイクをお願いする会場につくと、AFTER PARTY TOKYOのオーナーであるレディナナさんが迎えてくれた。最初、LINEやTwitterのお写真の「女主人!!」な感じとは異なり気さくな感じの方だった。
まずは衣装をレンタル……ということで、持ってきた赤い髪飾りと合わせて、赤いコルセットと黒いパニエをセレクト。ヘアメイクは、金髪を生かして、外国人風のレトロな感じにしてもらった。私を含めて4名がヘアメイクをお願いし、それぞれの良さを引き出していただいて「かわいいかわいい」と言い合った。
これが、
こうなる(ほくろも書いてもらった)。
会場となるネオマスカレードに到着すると、他の参加メンバーたちは鏡に向かって支度をしていた。通常のプランだと、レディナナさんの指導のもと自分でメイクをするのである。ショーガールのメイクスキルを自分で実践しながら体得できると考えると、とても魅力的に映った。
その間私がやったことは「ステージネームを決める」ということ。ショーガールとしてどのように呼ばれたいかを考え、イベント中はその名前で呼び合うのである。急遽私は「ステージネームってどうやって決めるんだろう……」と調べてみた。なんとなくの理解では「自分の個性」や「自分がこうなりたい」と思う像を名前にするとよさそうだった。
が、それゆえ短い時間のなかで決めるのは難しかったものの、チラチラと案として思い浮かんでいた「りんご」という名前にした。昔、椎名林檎が好きだったこと、星のカービィでもりんごモチーフはよく出てくること、愛称の「ゆうこりん」から、好きな色として選びがちな赤色からなど。バーレスク的なカタカナと、ストリップの踊り子的な日本語の名前の両方を兼ねられるところもいいなと思った。適当につけた割には悪くないかもしれない。
ハンドルネームが決めきれなくて、実名でインターネット活動をしてきた私には、りんご嬢と呼ばれると、「これが源氏名か……!」と、今いる場所が、普段の自分と地続きではないものを感じて不思議な気分だった。
ステージネームはさまざまな人がいて、普段からの活動名にしている方もいれば、悩んだ末に憧れのダンサーの名前にしている方もいた。みなさんその名前がしっくり来ているのが不思議だった。
ダンスの練習は、前半の1分半は2人ペアになって踊り、後半は1人だけで踊るというもの。前半のパートはみんなで、後半のパートは、3つのグループに分かれて少しずつ違う振りを練習する。インストラクターはAFTER PARTY TOKYOのバーレスクダンサーさんが務める。
振りは、難しそうに見えるけれど、動き自体はそこまで大変なものではない。ボックスステップや、脚と手で異なる動きをさせるところが難しいくらい。「振りを間違えたらポーズで誤魔化せばいい」というのも気が楽になるポイントだ(とはいえ、ポーズを繰り出すのもそれはそれで難しいのだが……)。後半の振りは、グローブを脱ぐのをメインイベントに、よりオリジナリティが出せるような内容となる。
自分も振りやステージの流れがなんとか頭に入ったかな、というところでもうリハーサルとなった。リハーサルは結構楽しく踊れたと思う。あっという間にもう客入れの時間となった。
本番は、プロによるバーレスクを合間にはさみながら、今回誕生したショーガールのショーが順々に行われる。観客には、ショーガール体験専用のチップが用意されていて、踊り終わった後はチップをもらいに回るということまでできるのだ。
リハーサルでは純粋に楽しめたものの、本番は、緊張したからかよろめいたり間違えたりして悔しいものがあった。動画撮影をお願いしたものの、見るのがちょっと怖い……。けれども、次はもっと良くしたい、これを取り入れてみたいという気持ちが沸き上がってくるのだ。プロのバーレスクダンサーの方も、今回誕生したショーガールのみなさんも、本当にみなそれぞれの良さがあった。緊張している方には応援したくなり、堂々とされている方はポジティブな影響を受け、自分ももっとうまくなりたいと感じる。そして、本番のステージの司会を軽妙に回しながら、ステージ上で只者ではなさを感じるレディナナさんに、真のエンターテイナーを感じた。
最後にみなさんでパチリ。
このショーガール体験、コロナでパフォーマンスをする機会がなくなってしまった方はもちろん、「自分に自信がない」と思っている方にもぜひ体験してほしい。私はこれまで、台湾の変身写真や、キャバレーゆうこの宣材写真撮影、資生堂フォトスタジオの撮影など、お金を払って大変身する機会をいくつか経験して、自己認識が「もうどうしようもない不細工」から「頑張ったらいい感じの写真も撮れる」へと変わってきた。
そういった体験の一つひとつが「世界は自分の力で変えていくことができる」という自信につながってきているのである。
一夜限りのショーガール体験では、きれいなメイクや衣装で大変身をして、人前で踊るという非日常の体験をする。そのなかで、「自分がどう見られているか」に限らず、それぞれのセクシーさを主体的に見せていくことができ、爽快な気持ちになれる。興味があるけど抵抗がある方こそ、ぜひ飛び込んでみてほしい。
私は今回のショーガール体験を通じて、舞台やイベントづくりへの関心が再燃し、来年の誕生日に向けて、真のショーを作りたいと心に決めた。見る側じゃなく踊る側でいたい。コロナ禍で失っていた熱量を思い出せたイベントとなった。