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中小企業には中小企業なりの「情報共有化」がある!

 経営の最重要課題の一つとして「情報の共有化」が叫ばれるようになって久しい。社内LANやインターネットは当たり前、グループウエアなど情報共有化のためのツールも今では安価な値段でリリースされている。そのせいか「情報の共有化を考えない経営者は、経営者に非ず」といった雰囲気さえある。しかし私はここで、あえて読者の皆さんに問いたい。「情報の共有化の意味って、いったい何ですか?」と。
 もちろん私は、情報を共有化することに意味がないというわけではない。ただ、大企業には大企業なりの、中小企業には中小企業なりの経営スタイルや企業風土がある。となれば当然、情報を共有化することの意味も、おのずと両者では異なってくるはずだ。そういうことも踏まえた上で「情報の共有化」といっている人は、実は意外に少ないのではないだろうか。

●まずは中小企業の経営スタイルを再認識する

 「情報の共有化」は、非常に重要な経営テーマである。しかし往々にして、「自社にとって本当に共有すべき情報とは何か」「それをどのように活用していくべきなのか」といった本来あるべき議論が見失われている。私はそのことに強い危惧を持つのである。

 「うちでは全社を挙げて、情報共有化に取り組んでいます」などという経営者の、その情報共有化の中味を拝見すると、実は「何時に誰々と打ち合わせ」「何時に得意先と食事」といった具合に、ただ自分のスケジュールを社員に公開しているだけということが少なくない。私はそういう状況を見るにつけ、「社員が経営者のスケジュールを把握して、それがどういうふうに業務の効率化につながるのですか」と問い正したい衝動に駆られるのだ。

 では中小企業にとって「あるべき」情報の共有化の姿とは一体どのようなものなのか? それにはまず、中小企業の経営の実態を理解するところから始める必要がある。

 社員数にして100名くらいまでの規模の中小企業であれば、その多くは経営者自らがワンマン体制で自社の舵取りをしていることが少なくない。役員とは名ばかりで、実質的な決済権を持たない一従業員にすぎないことも多い。その是非はともかく、こうした場合にまず必要になるのは、社員の側が新鮮で的確な情報を常に経営者に届けることだ。理由はいうまでもない。こうした中小企業の場合、社内のすべてを見わたし、しかるべき経営判断を下せるのは、事実上経営者しかいないからである。

●情報共有の要諦とは、何らかの経営判断につなげること

 多くの経営者にとって「情報共有化する」というと、それは多くの場合「グループウエアを入れる」「社員同士あるいは部門ごとに情報を共有させる」といった思考パターンをたどりがちだ。それは決して間違ってはいない。しかし情報共有の本当の目的は、「経営上の指針を導き出す」ことにあるはずだ。こと中小企業において部課長や権限を持たない取締役で情報を共有して、それで指針なり何なりが見出せるようになるかといえば、正直なところ疑問である。「新鮮で的確な情報を常に経営者に届ける」のが目的なら、グループウエアなど使わなくとも電子メールで済む話である。

 中小企業にとっての情報共有化の要諦は、第一に「経営者に情報を集中させる仕組みを作る」ことにある。その上で経営者は、寄せられてきた情報を取捨選択・分析し、有効な経営情報を社員に対してフィードバックして活用させる必要がある。つまり「情報の集中」→「熟成」→「周知」→「活用」という流れをつくるわけだ。社員間の情報共有は「周知」「活用」の段階で、初めて登場する。繰り返しになるが、まず大切なのは、経営者があらゆる経営情報を得るための仕組み作りであり、そのことを社員に周知徹底させる必要がある。

●経営判断を担う人物への情報の流れを作る

 では、大企業の情報共有についてはどうだろうか。これも中小企業と同じく、経営トップに必要な情報を集中させる重要性は変わらない。ただ問題なのはそれを阻む「組織の大きさ」である。硬直化してしまった組織、必要以上の階層になっている伝達ルート、時間のかかりすぎる稟議など、「情報の集中」の前に、「根本的な組織の見直し」という作業が必要になる(これは中小企業にも当てはまるかもしれないが、その困難さという意味では、大企業の比ではない)。その弊害は大企業も気づいてはいる。現に、つい先日も不祥事の隠蔽でマスコミを賑わせた某大企業では、皮肉にも事務所の壁に「セクション間を越えた情報共有を!」などという貼り紙がしてあったそうだ。結局「分かってはいるが、なかなか改善できない」というのが実情なのである。

 それに、大企業では、必ずしもすべての管理職・社員が“戦う集団”になっているとは限らない。経営者の要請に従って調査資料をまとめたり、部門間の調整をしたりといった“情報の加工”を生業としている間接部門が肥大しているからだ。また、経営トップは実際には“象徴天皇”のようなもので、実際の現場は課長職以下が動かしているケースが多い。こうした状況では、全社的に導入しているロータス・ノーツ等は当たり障りのない事項の伝達や経費精算などの事務処理に機能が絞られ、仕事を左右する重要な情報は、部署やプロジェクトチーム独自に導入したグループウエアで流すといった“二重構造”が必要かもしれない。その場合には、情報を集中させるべき相手は、課長や主任クラスということになる。

 いずれの場合も、まずは実質的な経営のトップに(あるいは部門の責任者に)タイムリーに情報が伝わる仕掛けを作ることが、情報共有の「始めの第一歩」なのである。改革の大なたは、現場の実状を経営者が正しく理解して初めてふるえるものである。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第36回 中小企業には中小企業なりの『情報共有化』がある!」として、2002年11月5日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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