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中小企業のIT導入で、まずパッケージソフトの利用を考えるべき理由

 前回は「中小企業がオーダーメイドのシステム開発で失敗する理由」について考えた。その時の最後にも触れたが、今回は私がオーダーメイドよりもパッケージをお薦めする理由についてお話したいと思う。
 パッケージソフトの導入というのは、前回同様建築に例えれば、注文住宅ではなく、建て売り住宅である。つまり、できあがっている家を買うことになる。従って、自分の要望を全て反映することは不可能だ。こうした不自由さは仕方のないところだが、この前提がある以上、やはり価格は安くなくては納得できないだろう。また、いくら既製品とはいえ、必要不可欠な最低限の機能が盛り込まれていることも重要だ。結論として、パッケージソフトの購入を検討する場合には、「価格」と「機能」が大きなチェックポイントといえる。

 まず、その「価格」については、一から作り上げるオーダーメイドのソフトウエアに比べると、やはり格段に安い。例えば、年商20億円規模の仕入れ販売会社が、販売管理システムを構築する場合を考えてみよう。これをオーダーメイドで作成しようとすると、どういうプラットフォームやツールを選択するかという条件でも変わるが、ざっと500万円から1000万円ぐらいが相場であろう。一方、同条件で考えたパッケージ製品であれば、数万円から、高くても数十万以内で充分だろうと思われる。投資リスクから考えても、パッケージの方が断然お得なのである。

 さらに、今の洗練されたパッケージは、累積の開発コストが数億円を超えるものも少なくない。ソフトウエアという性質から考えると、ユーザーに受け入れられれば受け入れられるほど、つまり数多く売れれば売れるほど、1製品あたりの製造コストは下がることになり、それは販売価格の低下にもつながってくる。多くのユーザーのノウハウが最大公約数的に反映されたソフトウエアが数万円で手に入る、というメリットは非常に大きい。

 以上のように、パッケージソフトは低価格で、しかも多くのユーザーのノウハウが凝縮されている、というメリットがある。しかし、実際の購入に当たっては、充分に注意しなければならない点もある。それが「機能」だ。

 パッケージソフトが既製品である以上、自分たちの望み通りに、かゆいところに手が届く機能を手に入れることは現実問題として不可能だ。つまり、“我慢”を強いられるわけである(ただし必要不可欠の機能が盛り込まれていることは絶対に譲ってはならないが)。しかしここで私が問題提起をしたいのが、では本当に“我慢”を強いられることが、自社のIT活用にとってマイナスなのか、ということである。

●パッケージソフトに「自社業務を合わせる」という発想が大切

 多くの中小企業の場合、パッケージソフトの導入時に、「自分たちのやり方にソフトをあわせよう」という発想をしてしまう。これはほとんど間違えた考えであるといっても過言ではない。というのも中小企業の場合、パッケージソフトを適用すべき業務のほとんどが、洗練されていないのである。標準化や手順化がされていないことはいうに及ばず、そもそも仕事のやり方が属人的なのである。担当者しかやり方を知らない業務が溢れているのだ。またやっかいなことに、そういう担当者に限って、昔からのやり方を変えようとはしない。例え社長が指示をしたとしても、である。理由は簡単だ。その担当者にとって、仕事のやり方を変えることは、苦痛であるし、ムダな時間となるのである。

 例を挙げて考えてみよう。スーツの量販店で、既製品を購入するとする。標準的な体型として何パターンかが用意されている。その中から、体型にあうスーツを選ぶことができる人にとっては、この量販店はいい店である。ところが、かなり太った人がこの店で自分が満足できるスーツを見つけることはできない。ここでこの人が満足を得るための方法は、2つだ。

A 自分の体型にあった、オーダーメイドのスーツを製作してくれる店に行く(もちろん、既製品に比べて、価格は高い)。

B ダイエットして、用意されているスーツ体型にあわせる。

 中小企業のパッケージ選択の場面もこれに似ている。Bのダイエットをするというのが、やはりベストな選択なのである。

 今のパッケージは、以前と比べてかなり標準化されている。例えば10年前のパソコンベースのパッケージは、販売実績も少なく、製品ごとに“くせ”がありすぎ、不具合も多かった。ところが年数を重ねてユーザーの要望を十二分に取り入れ、さらにユーザー数も増えたことで相当に使いこなされている。つまり経理や給与計算、販売管理、在庫管理などの業務ソフトのベストセラー製品は、様々な企業の実態を踏まえたうえでのベストプラクティス(最も望ましい業務フロー)を反映しているといってよい。工場の生産管理など自社独自の競争力と密接に絡んだ分野はともかく、一般的な業務は、パッケージを買えば、標準的な仕事のやり方を学び取るチャンスともなるのである。これを“盗まない”手はない。そのためにも是非“ダイエット路線”にチャレンジしていただきたいと思う。

●社内の“抵抗勢力”を、どう“矯正”していくか

 しかしそうはいっても、前段で触れたように、従来のやり方を変えたくない面々が会社には存在する。そうした状況がある以上、導入、即、活用とはならない。まずはそれら抵抗勢力を矯正し、これまでの属人的な業務のやり方を見直し、改善していく必要がある。そのためには、以下2つの手順が考えられるだろう。

(1)大リーグボール養成ギプス型
(2)ステップアップ型

 (1)の大リーグボール養成ギプス型とは、少々苦痛であろうと、矯正のためにITを使わせるということだ。多かれ少なかれ、できの悪い社員は存在する。経営者としては、何らかのしかけを設け、業務ロスや業務ミスのリスクヘッジをする必要がある。その方法としてパッケージソフトを入れ、無理やりにでもITに使わせるようにするのだ。このやり方で進める場合、“それがイヤなら辞めてもらう”というぐらいの、経営者としての断固たる姿勢が求められるだろう。

 (2)のステップアップ型とは、IT導入の前段階の整備を、じっくり時間をかけて行なうということである。つまり、業務改善から着手するという方法だ。ただし、相当な社長のリーダーシップとそれ相応のコストや労力が必要となるのは覚悟すべきだろう。

 これらはあくまでも代表的な進め方である。重要なのは、自社の体質を考えて、それに見あった選択をするということだ。パッケージソフト導入の際には、「価格」「機能」といった目に見える検討事項に加え、社内へいかにパッケージ利用を浸透させるか、といった方法論まで考えておく必要がある。

 さて、これまで述べてきた以外にもパッケージソフトには多くのメリットがある。最後にその他の主なものをご紹介しよう。

【導入時の社長の判断基準が明確になる】
 モノとして製品が存在しているので、導入時の比較検討もしやすいし、判断基準の目安が持てる。

【サポート体制も充実している】
 売れ筋のパッケージソフトには、サポート体制や研修サービスなども充実しており、利用や運用面でも安心できる(もちろん別途金額にはなるが)。

【必要に応じて、カスタマイズにも対応できる】
 パッケージソフトの中には、カスタマイズできるものもある。どうしても譲れないところだけは、手作りにできるメリットがある。

 今の企業にとって、IT活用は避けては通れない道である。だからといって何でもかんでも自社で作らなければならないということは全くない。自社の現状に応じて、まずはASPの利用から始め、次にパッケージソフトの活用、そして成長にあわせて最終的には自社でシステムを作る、というステップを踏んでいくのが現実的ではないだろうか。“賢い消費者”というのは個人だけに当てはまるものではない。むしろ今の中小企業こそ、そうなるべきだと私は思う。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第49回 中小企業のIT導入で、まずパッケージソフトの利用を考えるべき理由」として、2003年5月12日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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