見出し画像

なぜ、システムの納期は遅延しがちなのか

 <要約>ソフトウエア開発の遅延による業務の破たん、無理な工期によるシステムの品質劣化を防ぐためには、システム開発をITサービス会社に依頼する顧客の側も、しっかりプロジェクトマネジメントの必要性を再認識する必要がある。普通の業務なら、漠然とした指示を出しておけば、部下がなんとか仕上げてくるのだろうが、ことシステムという構築物は、建造物同様の十分な準備期間と着実な計画の作成と実行が必要なのだ。段取りが悪くてプロジェクトがうまく進むことなどあり得ない。


 ITツールは良いものが沢山増えた。パソコン用のパッケージソフトにしても、10年前とは比べものにならないほど進化した。しかし、その一方で、IT業界の体質はあまり進歩していないと実感することが未だに多い。

 その一つの例証として、今回は、オーダーメードもしくはカスタマイズによるシステム構築の現場での納期遅延の問題を取り上げる。

 実際、システム構築プロジェクトの納期遅延やそれによる業務破たんの事例は枚挙に暇がない。企業の大小の規模を問わず、日常茶飯事で発生しているからだ。

 例えば、最近私が見聞きした事例だが、年商20億円規模の中小企業がIT活用に取り組み、それまでの表計算ソフトによる管理を止めて、トータルシステム化を目指して販売管理システムをオーダーメードで構築した。しかし、実際は、当初の計画より1年も遅れてようやく立ち上がったところだ…こんな話は、本当によく耳にするパターンだ。

 納期遅延ではないが、相当に無茶な計画で開発を進める事例も沢山ある。一般的に基幹システムであれば、決算のタイミングでシステムのリプレースを考えるケースが多い。こういう類のプロジェクトは期限が決まっている分、かなりタイトなスケジュールでのシステム構築を余儀なくされる。某銀行の合併に伴う新システムに深刻な障害があり、顧客にも甚大な損害をもたらしたことは記憶に新しい。これは、表向きは、システムの不具合が原因となっているが、無理な工期でプロジェクトを進行したことが大きな原因であることが調査報告書で明らかになっている。

●建設業に比べてプロジェクトマネジメントが甘すぎる!

 私は、最初に奉職したのが某ゼネコンだった経験から、ソフトウエア開発を建設工事と比較して考えてみることが多い。一般的に建設工事が納期より大幅に遅れたということはあまり聞かない。建設工事は、橋の建設、トンネルの建設から超高層ビルの建築、マンション、一戸建ての建築など、挙げればきりがないほど様々なプロジェクトが思い浮かぶ。遅れるケースは無くはないが、めったにそういう話は聞かないのだ。建設工事の完成が遅延すると損害賠償などが膨大だからという理由もあるだろうが、ソフトウエア開発に比べると、プロジェクトマネジメントがしっかりしているからという理由が最も大きい(厳密な原価管理は、建設業界のこれからの課題であることを前提での話である)。

 ソフトウエアの納期が頻繁に遅れる原因を建設業と比較しながら具体的な原因を列挙すると、以下のようになるだろう。

 (1)業者に最初から無理な工期が押しつけられる。
 (2)設計が固まらないうちに工事を始めてしまう。
 (3)家を建てるときのような徹夜の突貫工事ができない。
 (4)不具合が発見しにくい。

 今回は、特に(1)(2)に焦点をあてて考察する。

 (1)は、こんなケースを通じて理解していただきたい。某メーカーのシステム構築のプロジェクトで考えてみる。この会社は経理、給与、販売、在庫などの、基幹システムのリプレースを検討している。決算が来年の9月で、今は年も押し迫った12月である。経営トップは既にIT責任者にリプレース実行についての指示は出している。検討して、早急に計画書のたたき台を提出するようにと…。そのIT担当者は、今までオフコンでつき合いのあったITサービス会社には一応の話は伝えている。ただし、ゴーサインは出せないでいる。今回のリプレースにあったては、幅広く他のITサービス会社の提案も比較検討のうえ、最適解を選択するようにとの経営層からの指示を同時に受けているからだ。これが、かえってIT担当者を悩ませている。自身の日常業務に追われて、まだ、新たなITサービス会社の選定すら進めていない状態だ…。

 こういうケースがどんな顛末をたどるかというと、IT担当者は年が明けて何社かに提案依頼を行い、その提案を受けて初めてカットオーバーまでの工期がタイトであるということに気付く。だからといって、受注競争から降りるITサービス会社は少ない。ともかく売り上げが欲しいからだ。結果、無理なシステム構築プロジェクトの火蓋が切って落とされる。

●顧客の側の意識改革が必要

 最大の原因は、経営トップ層も漠然とした指示を出しただけで、システム構築に関する明確かつ現実的なマスタープランが存在しないことだ。システム構築プロジェクトも、建設業同様のごく一般的なプロジェクトマネジメントが必要なのだが、あまりに抽象度が高いせいか、きちんとしたマスタープランづくりと納期管理の必要性が分かっている企業経営者は稀である。IT担当者もその具体的な方法を知らないことが多い。

 (2)は、(1)の結果として生じる現象だ。いくらITサービス会社が設計を前倒しで進めようとしても、そもそも発注側の設計思想が固まらない。だから調整ができずに仕様固めがズルズル遅れていく。結果、見切り発車、システムができ上がってきころに、初めて様々な要望が発注側から出てくる。その後は言うまでもなく、泥沼のプロジェクトと化すわけだ。

 言うは易し、行うは難しであることは承知の上で敢えて指摘したいのだが、発注側が何をやりたいのかも分からないうちに詳細設計には入れない。それに詳細設計は十分な工期を確保しなければ、様々な破たんをきたすことになるが、十分な工期を与えないケースが多すぎる。設計が固まらずに施工をすることなど、建設では絶対に有り得ないことだ。

 ソフトウエア開発の遅延による業務の破たん、無理な工期によるシステムの品質劣化を防ぐためには、システム開発をITサービス会社に依頼する顧客の側も、しっかりプロジェクトマネジメントの必要性を再認識する必要がある。普通の業務なら、漠然とした指示を出しておけば、部下がなんとか仕上げてくるのだろうが、ことシステムという構築物は、建造物同様の十分な準備期間と着実な計画の作成と実行が必要なのだ。段取りが悪くてプロジェクトがうまく進むことなどあり得ない。「負けに不思議な負けなし」…この金言はシステム開発にもあてはまるのだ。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第63回 なぜ、システムの納期は遅延しがちなのか」として、2003年12月4日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!