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組織の情報疎通を阻害する“血栓”を取り除こう

 <要約>何と言っても中小企業は、トップが本気で組織の風通しをよくしようと決意するかで命運が決まる。経営者が社員教育のつもりで建設的な意見に対して必ず肯定的なフィードバックをする…こうした習慣が定着すれば、やがて企業全体がオープンな雰囲気になってくるものだ。所詮、それ以外の処方箋は一時凌ぎということだ。苦境の時代にトップたらんとするなら、社員への“教育者”“奉仕者”になる覚悟が必要だ。


 営業情報(顧客情報、クレーム情報)、社内情報(数値情報、文書による報告)に限らず、情報共有化の重要なポイントとして、組織内での様々な情報の疎通をできる限りスムーズに行う必要があることについては、誰しも異論はないだろう。

 社員やそれに準ずる人が集まって組織を構成し、それがきちんと経営活動を営むためには、人間に例えるなら血液の循環とも言える情報の循環が遺漏無く行われていなければならない。しかし、その情報は鮮度が大切であると同時に必要なところに適正な量と質の情報が供給されることが必須である。人間ならば、血管に血栓ができれば命にかかわる。はたして企業はどうだろうか?

●情報の循環がトップダウンのみの中小企業が大半

 私が経験した限りでは、おおかたの中小企業(大企業でも似たような症状はあるが、ここでは中小企業に絞る)は、情報循環のための血管、つまり適正な情報循環経路に血栓ができていると言い切って間違いはない。

 私は仕事柄、情報共有化の実現に向けての企業診断を日々行っている。医療行為に例えるなら、造影剤で血管のレントゲンを撮り、そのうえで適切な処置を考えるのが私のミッションである。

 組織の情報循環機能を診断する際に、私は概ね以下の個所を診断する。

(1)トップから社員への情報循環(社長の訓示、経営方針の伝達、指示、命令など。概ね一方的)

(2)経営トップ層での情報循環(役員会、事業部間の情報疎通など。イエスマン型が多い)

(3)部・課・グループ内での情報循環(部会・課会・メンバー同士の情報共有など。個人主義が蔓延しがち)

(4)他セクションとの情報循環(大企業にもよく見られるセクショナリズムの排除のための情報共有など。もっとも、現場は必要性を感じていないケースが多い)

(5)現場の声の汲み上げに関する情報循環(現場の声、改善提案、不平不満など。結局は職場以外で発散しがち)

 ケースバイケースではあるが、ワンマンオーナー型の典型的な中小企業では、(1)の経路だけが抜群に機能している。社内の情報流通がこのルートのみに偏りすぎて、社員はうんざりというのが多くの企業の実情だろう。企業全体でモチベーションを高め合うという当初の目的が忘れ去られて、経営者だけが落語の“寝床”のようにいい気持ちという形式的朝礼などは格好の事例だ。

 (2)のスムーズな循環については、経営トップの切なる願いと言える。つまり、今まではトップのイエスマンでも良かったかもしれないが、これだけ変化が速く先行き不透明な時代になると、役員クラス、すなわち事業責任者が全社の経営について関心を共有し、侃侃諤諤(かんかんがくがく)と意見を戦わせてほしいのだ。さらに、現場に是非とも実現してほしい循環は(3)である。既にこのレベルに踏み込んでいるのなら、次に求めるのは(4)ということになる。

 今回取り上げたい、現在の中小企業で最も深刻な問題は、(5)のルートの活性化である。この経路が詰まっていると、企業が将来動脈硬化や心臓発作で死に至るかもしれないリスクを孕んでいるのだ。

 情報共有化の推進には、人事制度の改革が必須条件である。既に今までのコラムでも述べてきたが、(5)の活性化と人事制度は密接な関係がある。

 「何を言っても無駄。どうせ変わらないから、この会社は…」「昔、意見を具申したらこっぴどく叱られた」「正論を言うのはタブー。やんちゃが許されるのは、せいぜい入社後半年まで」…こんな社風の中小企業が実に多いのだ。

 何を言ってもトップの鶴の一声で決まる。上司は板挟み状態だから、ヒラが何か言うと追いつめられてしまってかわいそう…こんな言葉が現場の社員から出てきたら、既に危険な血栓ができている。大抵は、そういった声のはけ口は、中途半端なノミニケーションということになる(ちなみに私は、遊びが主体の明日への鋭気を養うようなノミニケーションに関しては推進派である)。

●現場の声を吸い上げるには、トップの意識改革が必要

 改めて整理してみよう。情報循環は何のためにするのか? 業務を改善して業務効率を高めたり、従業員満足と同時に顧客満足を向上させたりすること、つまり、最終目標は企業の業績向上である。人間で言えば、意気軒昂、健康優良児の状態が目標なのである。当然、血栓などつくってはならないし、コレステロールが溜まる兆候があれば、改善に向けてのコントロールが必要である。

 組織においてこうした体質改善を図るにはどうするか? まずは中間管理職層が部下の意見に必ずコメントを返す習慣を定着させることである。本来は口頭でこうしたやり取りがスムーズにできていることが望ましいが、定量的に“血流”を測定するには、営業日報ベースで適切なコメントが返っているか、メールの受発信がきちんとなされているかをチェックするのも手だ。

 ただ、何と言っても中小企業は、トップがこうした基本動作を身に付けるかどうかで命運が決まる。経営者が社員教育のつもりで建設的な意見に対して必ず肯定的なフィードバックをする…こうした習慣が定着すれば、やがて企業全体がオープンな雰囲気になってくるものだ。

 少々批判的な意見であろうと、社長への直言であろうと、会社がつぶれることを考えたら、建設的な意見であることを条件になんでも言える、受け入れられる…こうした体質への転換を社長自らが決意するしかない。所詮、それ以外の処方箋は一時凌ぎということだ。苦境の時代にトップたらんとするなら、社員への“教育者”“奉仕者”になる覚悟が必要だ。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第65回 組織の情報疎通を阻害する“血栓”を取り除こう」として、2004年1月6日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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