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ITは「仕事ができる・できない」の格差を増幅する!

 ITを活用して効率的な仕事を実現するためには、もちろん然るべきスキルが求められる。それはITに関する知識やコンピューターの使いこなしといった「ITスキル」はもちろんだが、むしろここで強調したいのは「ITを全く使わないで仕事をする」ために求められる「非ITスキル」の有無である。これはつまり、ITが普及する以前から必要とされていた、いってみれば「普遍的な仕事スキル」と考えておけばいい。
 つまり充分にITスキルを発揮するにも、まずは仕事スキル(非ITスキル)が必要だということである。仕事柄もあって私は様々な企業を見る機会がある。そこで痛感させられるのは、IT化に成功している企業というのはおしなべて社員一人一人の普遍的な仕事スキルの潜在能力が高いという事実だ。逆にいえば、それがない企業にはどんなに優れたIT、最新鋭のソリューションを導入したところで、決して根付くことはないということでもある。

 仕事スキルはさらに2つに分けることができる。上でも述べたIT知識やコンピューターの使いこなしといったITスキルと密接に関係してくるものと、関係してこないものとだ。ここでは仮に「ITに関する仕事スキル」「ITと無縁の仕事スキル」として、以下に解説を加えておこう。

●「仕事スキル」のある人とは、合理的・論理的でかつ自立型の人

 まず「ITに関するスキル」とは簡単にいえば、合理的・論理的に仕事を片づけられるスキルのことである。ITとはその仕組みからしてきわめて合理的にできている。そのため、合理的・論理的でない人にITを与えたところで、せいぜい手書きの書類がワープロになる程度の「効率化」で止まってしまうことは往々にしてある。

 一方、「ITと無縁のスキル」とは、現状を打破しよう・改善しよう、という強い意志である。自ら問題を発見し、その解決策を立案し、周到に実行し、さらに次の動き方を修正していく力とも言い換えられる。こうした意志の持ち主であれば、使いこなしの難しい面倒なソリューションが導入されたとしても、足りないスキルを補おうと自ら努力をするだろう。その意味では、ITと無縁とはいえないかもしれない。もっと上位概念の能力とも言える。ともあれ経営環境が激動を続ける中、企業に求められるのはまさにこうした意志をもった、自立型の人である。

 「何を当たり前のことを」と思われるだろうか。しかし昨今、私はこの当たり前のことが余りにも見落とされているような気がしてならないのだ。上段で述べたことの繰り返しになるが、もともと仕事ができない人がITを使ったところで、それでいきなり仕事ができるようになるわけではない。それどころか、能力の無さがさらに増幅されるということは、肝に銘じておいていただきたいと思う。

 実は大企業の経営幹部のような(それこそ傍から見ても「仕事ができる」と思われているような)人であってすら、こうした仕事スキルを持っていないという人が決して珍しくはない。その理由は様々だろうが、一つには「取締役」とか「執行役員」とかいった肩書きに護られ、下から上がってきた稟議案件を決済するだけで、自ら問題を発見し、自ら決断するという機会がなくなり、ほとんど自立的に動けなくなっているからだろう。だからもし「これからIT化を図る」という経営者の方がおられたら、自分の“現役時代”を思い出しながら、自社全ての社員に対して、こうした仕事スキルがきちんと備わっているかどうかを再確認しておくべきだと声を大にして言いたい。

●ITは各人のもともとの能力格差を浮き彫りにする

 ITの利用は、こうした社員各自の仕事スキルを明白にし、仕事ができる・できないの格差を増幅させる方向に作用する。なぜならばITによって各自の仕事ぶりは全てオープンなやり取りの中で公開されるためだ。これは例えば、メーリングリストなどを利用したオンライン会議などを想像してみればイメージしやすいだろう。あるメールでの問いかけに対して「できない人」が返信を怠れば、それは全員が知るところとなる。あるいは返信したとしても、その内容や文章がお粗末だとしたら、それもまた衆人の目に明らかになる。

 または見積書や提案書などの文書ファイルをネットワークの中で一元管理して共有するといったシーンでもそうだ。全員がそれを徹底できれば何の問題もないわけだが、「できない人」は決められた場所に最新のファイルを保存することすらできなかったりする。そういう人がいると、全体の効率を大きく下げる結果となる。メールの利用やファイル共有といった初歩のレベルでもそうなのだから、ましてIT活用のレベルが深化していけば、仕事スキルの格差がますます浮き彫りにされていくのは明らかだ。

 ITの利用が「各自のスキル格差を増幅させる」とどうなるか。一般に、仕事ができる人間には多くの仕事が振られるという傾向がますます加速することになる。それは翻って、給与や待遇の格差になって現れてくるはずだ。これはデジタル・デバイド(コンピューターのスキルの優劣が待遇の格差となること)そのものであるが、そのベースとなるのは必ずしもITスキルではなく、むしろ非ITスキル(=仕事スキル)にあることを忘れてはならない。ITを根付かせ、そしてITによって大きな実りを得るための土壌は、ひとえに普遍的な仕事スキルを鍛えていくことによって作られていくのである。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第38回 ITは「仕事ができる・できない」の格差を増幅する!」として、2002年12月2日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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