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中小企業のIT担当者選びは、IT知識より仕事のスキルを重視せよ

 IT担当者の資質の判断基準が欲しい…最近の経営者の大きな悩みである。その答えは「IT知識より仕事のスキルを重視せよ」である。ITをいかに仕事を活かすかがIT活用の最大の目的である限り、単に手段にすぎない情報技術に精通しているだけでは、自ら問題提起をしたり改善案を出すことは不可能に近いからだ。仕事スキルが高くて始めて、その仕事にITをどう生かすかを考えることができる…こんなしごく単純な理由である。


 IT担当者に求められる資質については、ずいぶん以前にこのコラムでふれたことがある。ますますITが当たり前のものとして企業活動に組み込まれていくなか、IT担当者の役割は日増しに重要度を増している。最近では、中堅・中小企業でもIT担当者の採用や育成に経営者は腐心しているし、事実、この分野のIT関連サービス会社の教育サービスメニューも増えつつある。私が率いるブレインワークスの営業活動においても、経営トップ層や幹部クラスだけでなく、IT担当者との接点も増えてきている。

 だが、IT担当者は中堅・中小企業にとっては新しい職種だけに、ときどき、その人選について悩む経営トップの相談の報告が、私のもとに営業記録としてあがってくる。そこで、今回は経営トップのために、IT担当者はどんな人が適任なのか、見分け方についてのポイントをまとめてみよう。

 なお、組織が小さくてもIT関連の責任者をCIO(Chief Information Officer)と位置付け、経営とITの橋渡しを担わせるべきという主張が一時流行ったことがある。私は、中小企業にあっては、ご大層な概念や職種はなるべく持ち出さないほうがよいと考えている。もっとシンプルに、どういうスキルが必要なのかという視点から定義していった方が、より実態に則したアドバイスになると思うがどうだろうか?

 傾向としてまとめると、総じて中小企業経営者の考えているIT活用の方向は、業務効率化から経営情報の共有と活用にシフトしつつある。特に、営業力強化、顧客とのコミュニケーションの強化などのためのIT活用は、サービス業、販売業のみならず製造業でも、経営課題の重要項目として位置付けている企業が増えつつある。今までの基幹システムの構築やネットワークインフラの導入までは、にわか仕立てのIT担当者に任せてきたが、情報の共有化や活用となると、どうやら違った資質が求められそうだ。どうすれば良いのか…といったところが平均的な悩みの内容だ。

●中小企業経営者はIT担当者の資質を見抜く指針を求めている

 私自身、こんな相談ごとに出くわしたことがある。数年前のブームに乗ってパソコンLANも取り入れた。販売管理システムもパッケージを導入して使っており、特に問題はない。ただ、現状は、物販のための事務を効率化したにすぎない。そうではなく、顧客満足度の向上と営業力の向上につなげていくためには、どんなIT活用に取り組んでいけばよいのかというのが、概ねの内容だ。

 経営者の問題意識は、以下のようなポイントに集約された。

・次のステップに進むために何をすべきか
・更なる投資と成果が出るまでに時間がどれくらいかかるか
・そもそも、IT担当者など置かずに外部に支援をお願いしたほうがいいのか

 相談を受けた時点で、ITに関することがら全般を任せている社員は一応いた。3年前にソフト会社から転職してきた30歳の社員だが、世間の中小企業と比べて、その担当者の資質がどんなレベルにあるのかの判断ができない…。経営者からこんなふうに率直に打ち明けられてしまった。

 私は、いきなり個別の質問に応じるのではなく、まず、「IT担当者を自前で置くことは絶対に必要であり、自社で解決案を練っていくという自主性が前提にないと、外部の支援もうまく生きない」ことを強調した。そのうえで、要となるIT担当者に求められる資質について説明した。その回答は、割合に中小企業全般に通じる普遍的な内容を持っていると思われるので、ここに列挙してみよう。

(1)優先すべきは、ITそのもののスキルよりも仕事スキル
(2)コスト意識とその実行力
(3)情報収集力
(4)社内でのコミニケーションスキル
(5)業務への精通度
(6)アウトソーシングを活用する場合は、社内外の人間を巻き込んだプロジェクトマネジメントスキル

 当たり前の話ではあるが、前述したように決して、決してCIOなる職務のレベルを要求するものではない。中小企業におけるIT化は、圧倒的に業務合理化レベルのテーマが多く、なるべく現場に近いところに担当者がいたほうがよいからだ。

 上記の中でも、特に重要なものをあげると(1)(2)(5)である。

●ITよりも仕事と業務の勘、スキルを重視せよ

 (1)についてはすんなり理解していただけるのではないか。「ITをいかに仕事を活かすか」がIT活用の最大の目的である限り、単に手段にすぎない情報技術に精通しているだけでは、自ら問題提起をしたり改善案を出すことは不可能に近いからだ。仕事スキルが高くて始めて、その仕事にITをどう生かすかを考えることができる…こんなしごく単純な理由である。

 (2)については、IT投資そのもののコストは言うまでもなく、IT担当者本人の人件費やそれに付帯するコストが全てIT活用にかかわるコストであるという意識を持って、日々の業務でムダの排除ができる人ということである。中小企業は間接部門を極度にスリムにしているところが多いのだから、大企業のシステム部のような間接部門意識丸出しでは困るのだ。

 (5)については、例えば顧客作りをテーマにした場合、机上の空論に基づいたシステムはいかようにも作ることはできるが、それは結局、役に立たないということだ。現場のアナログな対応の現実を知り、そのうえで営業現場の士気をあげるためのツボを心得たうえでITを導入していかないと、運用はうまくいくはずもないからだ。つまり、その会社のカルチャーをきちんと理解し、実情に照らしたIT活用に精通していなければならないということである。

 では、社内にITとの接点のある社員がいない場合はどうするか? それは、仕事のできる自社のキーマンを責任者に据えて、後はアウトソーシングするのがベストである。そのうえで、担当者に社外研修を受けさせたり、外部アドバイザーに担当者の指導を依頼するなどすれば、最低限のITの勘所は身に付くだろう。

 ただ、中小企業といえども、私たちでも驚くようなバランス感覚の持ち主で、情報技術にも通じた優れたIT担当者がおられることがある。それは、経験上大きく2つのタイプに分けられる。

 ひとつは、以前、いわゆるIT業界でプログラマーやSEの仕事を経験してきており、それでいて、ユーザーサイドでの仕事を強く望むようになった人である。こういう人は、使う側の視点でITの導入・運用を計画することに非常に熟達している。言い方を変えれば、もともと、チームの中で仕事をすることに向いた人が、ITの専門職であったというだけのことである。

 もうひとつは、ITの専門家ではないが、そもそも、主たる職務における仕事のレベルが高く、それでいて、独学もしくは、社外の研修などを通じて、ひとつのスキルとしてITをマスターした人である。こういうタイプは、ITオンリーではなく、自分の自信のある仕事の領域を持っているので、自ずとバランス感覚はよくなる。ITサービス会社にとって両タイプともにありがたい存在であるが、どちらかと言えば後者の方が、最初からコミュニケーションがうまくいくことが多いようだ。ITサービス会社が切実に求めているのは、何より仕事の現場との橋渡しをしてくれる人だからだ。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第60回 中小企業のIT担当者選びは、IT知識より仕事のスキルを重視せよ」として、2003年10月20日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト


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