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相見積もりは、価格をたたくために取るのではない!

 ITに関するサービスや商品の適正価格は、専門家でない限りは分かりにくい。過去にIT投資で手痛い失敗をしてしまった経営者は当然として、これから始めようという経営者でも、価格の不明朗さは、IT投資そのものに対しておっくうになったり、ITアレルギーになってしまう大きな原因の一つだろう。パソコンなどのハードウエアは、はっきりしたスペックやメーカーの希望小売価格、おおよその商品相場があるので、まだ何とか理解はできるが、顧客ごとにカスタマイズしたソフトウエアやサービスは本当にわかりにくい。
 中小企業の経営者やIT推進責任者の方々と話していると、よくこういう質問を受ける。「システム構築を業者に依頼して見積もりを取ってみたのだが、その中身の良し悪しや、値段が高いのか適正かの判断ができない。どこで判断したらよいのか?」。正直この手の質問には答えにくい。見積書そのものを見ないと、専門家でも見当がつきにくい。推察で返事をすると、結果的には全然的はずれな指摘だったりして、後でお叱りを受けかねないので、答えにはつい慎重になる。

 具体的な事例で説明しよう。例えば、ある小売業の企業が、顧客サービスの向上のためのWebシステムを構築するとする。この場合は、見積もりの項目としてはざっとこうなるだろう。「サーバー機器」「LAN環境」「環境設定」「システム構築」「システムの運用保守」「導入教育」「機器の搬入」「ネットワークセキュリテイ関連」…。

 チェックしないといけない項目は幾つかある。まずは、サーバー機器に関して説明する。ハードウエアは判別しやすそうに思うのだが、これが意外に落とし穴がある。要するにグレードの問題だ。性能を表すのによく『スペック』と言う言葉が使われるが、提案された機器が、自社の望むシステムを運用するのに必要なスペックだと言われても、それが妥当かどうか、素人が的確な判断をすることは難しい。

 次のポイントとしてはサービス、具体的には「環境設定」「運用保守」「機器の搬入」の代金だ。大抵は、業者の人件費から算定されるが、サーバー1台のインストール代金が10万円のところもあれば30万円のところもある。システム構築の開発費などは、2、3倍も値段が違うことがざらだ。

●惰性に流れたシステム発注が、ベンダーを腐らせる

 外部の専門家に相談できるなら、その判断を仰ぐことが一番だ。昨秋からITコーディネーター制度が始まったが、現在のところ、その費用を各地の商工会議所が援助している事例も多い。彼らはITベンダーと経営者の仲立ちになって、合理的な発注に一役買ってくれるだろうと言われている。それよりも、ぜひ心掛けて欲しいのは「見積もりを複数のベンダーから取る」、いわゆる相見積もりを取ることだ。これを実施していない中堅・中小企業が多いのには驚かされる。

 特に、地方などの中小企業に多いのだが、たいていオフコン時代から付き合いのある地元のソフト会社やコンピューターの販売代理店など、特定の一社とに機器の納入、システム開発、その他のサービス提供などを任せきっているケースが多い。確かに、このやり方のほうがいちいちややこしいことを考えなくて済むし、人間関係も良好になるだろう。しかし、そのことが結果として必要以上のIT化コストをかけてしまうという原因になっているケースが多いのだ。競争原理が働かないので、ベンダー側がサービスの向上をおろそかにしてしまうという問題もある。「昔からのつきあい」といった惰性に流れた受発注関係では、ベンダー側の技術やサービスは決して磨かれることはない。

 もちろん、いたずらに数を増やせばよいと言うものでもない。大小合わせて3社程度で十分だろう。互いの提案内容や費用項目がばらばらだと、比較検討がしにくくなるので、最初は合同で説明し、なるべく同じ項目で提案書を提出してもらうとよいだろう。そのうえで、外部のコンサルタントに選定基準について判断を仰げば、完璧と言える。

 ここで、声を大にして言いたいのは、こうした相見積もりは、必要以上に価格をたたくために取るのではないということだ。そうではなく、ユーザーのニーズに応じた適正なシステムが適正な価格で納入されているか、システム導入の目的にあいまいさがないかを、プロジェクトごとにきちんといずまいを正し、ベンダーとユーザーが互いに確認し合うのが目的なのである。そして、お互いがハッピーになれるWin-Winの関係を目指したいものだ。相見積もりを単なる価格たたきの道具に使ったりしたら、経験不足の担当者を充てられるといった、思わぬしっぺ返しを受けかねない。世の中、うまい話はないのである。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第19回 相見積もりは、価格をたたくために取るのではない!」として、2002年2月25日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト