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SFAだCRMだと騒ぐ前に経営者がやるべきこと

 SFA(セールス・フォース・オートメーション)というITが登場して久しい。ご存知の読者も多いだろうが、これは「営業支援システム」と言われるもので、要は営業部内での情報共有を徹底し、それによって営業力を高めることを目的としている。どんな業種であれ営業力は企業の生命線と言える。特に、従来の売り方では実績があがらなくなった成熟業種ではなおさらそうだ。だから、大企業はもとより中堅企業までもが先を争うように導入し、ちょっとしたSFAブームが起きたことがあった。もう3~4年も前の話だ。
 さて、そうやってSFAを導入した企業は、現在どのようなことになっているだろうか? 私の知る限り、残念ながら「失敗した」と言わざるを得ないケースがほとんどなのだ。SFAの使いこなしは、ITベンダーが言うほどには簡単ではなかったのである。

 では現在旬のIT営業ツールは何か? どうやらそれはCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)ということになりそうだ。いうまでもなくCRMとは、顧客満足度と企業収益の向上を図るための戦略的な仕掛けのことだが、SFAは、このCRMを実現するためのフロントオフィス系のツールとして位置付けられている。なるほど、顧客との継続的な関係を強化することこそ、最重要の経営課題と言えなくもない。

 しかしこれは、いささか意地の悪い見方をすれば、これまでの「営業力が大事」という命題を、「お客様こそ大事」にスリ替えただけと言うこともできる。ITベンダーが考えた流行り言葉に踊らされているだけなのだ。グループウエアの導入さえこれからという企業に、SFAだ、CRMだと言ったところで、果たして本当に使いこなせるのだろうか? 残念ながら、はなはだ心許ないと言わざるを得ない。「情報共有は何のためにするのですか?」「そもそも皆で共有すべき情報とは何ですか?」と営業部門の管理職に突っ込んで聞くと、しどろもどろになることが多い。だいたい、名刺すらキチンと管理できないでいる営業担当者も少なくないというのに…。

●営業担当者が部内全体・会社全体のことを考えられる環境づくりを

 電子メールを活用して情報共有を実現しようとしている会社を担当したことがある。グループウエアやSFAなどと構える前に、営業の活動記録をメールを使って共有していこうという試みである。そこでは、ベテラン営業マンが管理職に対してこんな疑問をぶつけていた。「なんで、自分の大切なお客様や商談の情報を他のメンバーに開示する必要があるのですか?自分が成績を上げるためには、クローズしておきたいのに…」。

 狭い視点で考えれば、確かに一理ある。だが、時代は変わってしまったのだ。優秀な営業マンが何人か入れば、会社が回る時代は去ったのだ。ならば、名刺の情報、商談の情報などを共有して、少ないネタをチームとして有効に生かす努力をすることが必要なのだ。そのためには、営業部門に広く浸透している「歩合制」も再考する必要がある。「自分の営業成績さえよければいい」という発想のままでは、遠からず行き詰まってしまうことだろう。

 営業部門全体、ひいては会社全体のことを考えること…。本来であれば、営業担当者たる者、すべからくそうしたイマジネーションを持っているべきである。そうしてこそ、始めてITは有効なツールになるのだ。社員の意識改革と、それを担保するための人事考課の変更は、低成長期の企業経営者の大きな課題の1つである。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第14回 SFAだCRMだと騒ぐ前に経営者がやるべきこと」として、2001年11月30日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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