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停滞した組織にあっても、「時間コスト」を忘れるな

 企業の「経営資源」は一般的に、「ヒト・モノ・カネ」だといわれている。さらに最近の高度情報化社会においては、これらに新たな要素が加えられるようになってきた。「情報」と「時間」である。つまり、「いかに必要な情報を収集して活用するか」、また「いかにスピーディーに企業活動を進めることができるか」といったことが、企業の存続を大きく左右する重要な要素として認知され始めたのである。
 これは多くのITソリューションが「情報の共有化」や「業務の効率化」を狙っていることを考えれば、ある意味で当然のことかもしれない。前回・前々回と、情報収集・活用の重要性について(つまり「情報」という視点で)話をしたが、今回は、もう一つの「時間」の活用という視点で仕事スキルを眺めてみようと思う。

●「時間を有効活用するスキル」のない人の生態

 まず始めに、「時間」を有効活用するためのスキルとは何か。このスキルは「情報収集・活用スキル」と同様に、仕事スキル、ひいてはITスキル(=ITを活用するスキル)とも密接な関係がある。なぜなら、前述した通りITは「業務の効率化」を目的の一つとしており、それは「時間の短縮」にも結びつくからだ。従って、「情報収集・活用スキル」だけあったところで「時間を有効活用するスキル」が無くては意味がない。

 というよりも、情報を「効率的に」収集していくためには、当然「時間を有効に活用」することが不可欠であり、これら2つのスキルは車の両輪のような関係にある。だから「仕事スキルを向上させたい」「ITスキルを高めたい」と思うのなら、もちろん「情報収集・活用スキル」を磨くのは最重要課題ではあるが、「時間を有効活用するスキル」の欠如による不都合の発見・改善をも同時に考えなくてはならない。

 「時間を有効活用するスキル」の欠如は、具体的にはどのような形となって現れるのだろうか。卑近な例でいえば、「机の周囲が整理整頓されていない」といったことも挙げられるかもしれない。探し物がなかなか見つからなければ、その間の時間はムダになる。こうしたことは自分自身の、ひいては全体の作業効率の悪化も招く。

 また、自分自身の時間管理はできても、「チーム」としての時間管理を考えない人も「時間活用スキルの欠如した人」と言える。分かりやすいところからいえば、「段取りが悪い」「気が利かない」といった言葉に象徴される特性だ。例えば、会議の準備をしない、会議の目的を明確にしないことにより、ダラダラと無意味に長い会議を行なう管理職が多く見受けられる。また、重要なやり取りは必ずメモを活用する習慣のない人もコミュニケーションの効率を阻害する。

 「チームワークでの仕事ができない」「情報の重要性が理解できていない」「約束が守れない」といったことも時間管理にはマイナスだ。例えば皆がメールを使って情報共有をしているのに、一人だけ手書きのメモに固執していては、デジタルデータ化されない部分が残ることになる。これでは他の人に余分な手間がかかる。また、顧客からのクレームなど重要な情報を「必要なタイミングで」報告することができなければ、その顧客へのフォローは後手に回らざるを得なくなり、かけなくてもすむ手間や時間を取られることになる。

 約束を守れないのも同様だ。リスケジューリングの連続では時間だけが過ぎていき、物事は全く前に進まない。本人はそれと意識はしていなくとも、こうしたことは往々にしてある。それは他人の時間を奪っていることに他ならない。

●「時間=コスト」という認識を欠いた「仕事ができる人」はあり得ない

 忘れてはならないのは、「時間」は金銭的コストとも密接に結びついているということだ。例えば無駄に長い会議は、それだけで会社に多大な損害を与えることになる。会議の時間を半分で済ませ、残りの時間をその他の業務に集中することができれば、生産性は大いに上がるだろう。まさに「時は金なり」という至言の通りだ。けれども、こうした時間の貴重さを明確に意識して仕事をしている人は、意外に少ないのではないだろうか。

 というのも、私の見るところ日本企業は、多くは「やり遂げる」ことに大きな価値が置かれており、そのために払ったコストについては意外に無頓着であることが多いように感じるからである。もちろん「やり遂げる」ことによって「ノウハウが蓄積される」とか「対外的な信用が高まる」といったコスト以外のメリットを得られることもあるので、一概にそれを悪と断定することはできないだろう。

 だが、「やり遂げる」ことは、プロである以上当たり前である。真のプロであれば、そこから更に一歩進めて、どれだけ「効率的に」やり遂げることができたか、という視点を持たねばならない。私はこの10年以上にわたって自社の、あるいはクライアント企業の業務効率化をサポートしてきた。その経験からいえば「時間=コスト」という認識を持って業務をこなしている中小企業はごく少数であると実感している。

 では、「時間を有効活用するスキル」を身につけるためには、具体的にはどうしたらいいのだろうか。

 例えば個人レベルでいうと、これまで30分かかっていた仕事があったとしたら、それを「20分で終わらせることはできないか」と考えて行動してみることである。また複数人が関係する会議などでは、1時間なら1時間と時間を決めて、必ずその時間内に終わらせるように頑張ってみることである。これらはもちろん、唯一無二の処方箋ではないが、少なくともこうしたことを常に意識して動くことで、これまで気付くことのなかったムダや余計な手間も、そしてその解決策も見つけやすくなるはずだ。

●会社の官僚化を自分の無能化の言い訳にするな

 ここで、読者はすっきりしないものを感じるかもしれない。「無駄な会議」「不必要な委員会」は、ある程度大きくなった組織では避けられない「税金」のようなものなのだと…。

 企業規模がある程度以上になると、どうしても管理職以上は「責任の回避」「責任の分散」を図るために、トップダウンによる明確な指示を避け、小田原評定のようなダラダラ会議をしたり、あきれるほど多くの委員会をつくったりする。中堅企業クラスでも、この“大企業病”に毒された会社は多い。それに対して一社員が真っ向から抵抗できるはずもない。それは確かだ。

 だが、それをあなた自身が“無能化”する言い訳にしてはならない。あなたがまとめている小チームという単位なら、効率的なタイムマネジメントは可能だろう。あなたは粛々とそれを実践すればよいのだ。

 社内の“官僚組織”からはじかれてしまっては仕事ができないから、「悪習も法なり」と納得して従う。しかし、自分の手の内で効率化できる部分は本当にないのか…この“複眼思考”を持ちながら、閉塞した組織を泳ぎきっていただきたい。それが、あなたの真の仕事スキルの維持に役立つはずである。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第41回 停滞した組織にあっても、『時間コスト』を忘れるな」として、2003年1月20日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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