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‘技術者’にはIT担当者は務まらない

 第3回のコラムでIT担当者選びの難しさについて若干触れたが、このIT担当者の問題をもう少し掘り下げてみたい。
 どこの会社にも、社員が10人ぐらいになると社員の中に1人ぐらいは、パソコンに詳しい人が必ず存在する。ほとんどの場合、社長は、このパソコンに詳しい人をIT化担当者として指名する。社長自身がパソコンに詳しくない場合は、この傾向は特に顕著だ。自分自身が暗闇を歩いているようなものだから、手近な社員に責任を投げてしまいたくなるのも無理はない。極端な話、パソコンを使った事があれば、社長から見て、頼れる優秀なIT担当者ということになるわけだ。

 数年前はこれでもよかった。オフコン、もしくはスタンドアロンのパソコンで企業の勘定系情報処理の一部分をこなすだけだったからだ。情報システムそのものが企業経営に及ぼす影響は今ほど大きくはなかったため、一担当者のレベルでも十分対応できた。ところが、今の時代は、中小企業といえども、IT投資は企業経営の方向を見据えながら、全社を巻き込んだ形で実施しなければならなくなっている。従ってIT担当者に望まれる重要なスキルとして、‘経営者の目線を持つこと’が欠かせなくなってきたのだ。

 ならば、外部からシステムの専門家をスカウトしてはどうかと考える経営者もいる。しかし、これも必ずしも的を射た人事ではない。

 ある時、年商数十億円の企業からこういう依頼をいただいたことがある。自社のIT担当者のスキルは世間レベルと比べてどうか、今後のIT推進のキーマンとして任せてよいのかを客観的に診断してほしいというのだ。経営陣からいろいろなIT化に関する要望を出して、それに対して担当者に提案をさせている。ところが、経営陣がいくら経営者の目線でのIT活用戦略を立案しても、その意図を汲んだ提案がなかなかでてこない。しかも、提案を1案しか上げてこないので不安になるというわけだ。

古い知識が柔軟さを奪う
 その担当者と面談をして分かったのだが、元ソフト会社でプログラマーをやっていたとのこと。よくあるケースなのだが、どうしても、自分の知っている技術に固執しすぎる。人脈も自分の知り合いのプログラマー仲間に限られるので、そこから得たアドバイスや雑誌などで収集した情報がその人の知恵袋ということになる。厳しい言い方だが、汎用機やオフコンのプログラミングにたけていたところで、現在のITツールやアウトソーシング先をどう組み合わせるかを立案する役には立たない。古い知識が邪魔をして企業経営やIT環境の最前線の情報をその都度吸収する意欲が弱いので、最適な提案が出せないのだ。また、技術者志向が強すぎる人は組織的な動きができないため、現場との意志の疎通に欠き、結果として社内ユーザーからの不平不満に繋がってしまう。

 いまどきのIT担当者に求められている資質は、経営課題を理解しながら、時には専門家、時にはコーディネーター役として、しっかり組織レベルでのコンセンサスを醸成できる能力なのだ。仮にITの専門知識がなければ、パートナー会社にアウトソーシングすればよい。これからは、中堅・中小企業のIT担当者は、仕事のキーマン、すなわち社長の目線を理解しながら現場の状況を整理できる経営企画部門の責任者や、勘定系データの元締めである経理の統括者を指名する方がよいかもしれない。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第7回 ‘技術者’にはIT担当者は務まらない」として、2001年8月27日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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