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保育施設(保育園等)の職員配置基準問題

保育施設運営側の視点から、職員配置に関する私見をお伝えします。

現在の状況

確認のため、現在の配置基準をお伝えします。
 0歳児、   3対1。
 1・2歳児、 6対1。
 3歳児、  20対1。
 4・5歳児、 30対1。
です。

以下、厚生労働省の資料もご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1006-7e_0005.pdf#page=3

注意いただきたいのは、「一人の保育士で見られるのは4・5歳児が30人まで」とは若干異なる、ということです。

例えば、小学1年生で「1クラス30人まで」という基準では、31人になった時に2クラスとなり、担任の先生が少なくとも二人は配置されます。

保育園の場合、4・5歳児が30人に達したら、保育士1人分の給与となる給付金が施設に払われる、ということです。
では、4・5歳児が15人だったら? その場合には、保育士0.5人分の給付金が払われる、ということです。

文科省と厚労省の違いはあるのですが、例えば、小学1年生、保育園的な呼び方で言えば、6歳児です。
6歳児が小学校で過ごすのは、主に午前中のみで、保護者の感覚からすると、すぐに下校します。しかも、授業と授業の間の休み時間は、運動場で遊んでいたりするので、担任の先生が一人一人の生徒を見守っているわけではありません。職員室で次の授業準備をされることもあろうかと思います。

一方、保育園は基本11時間の開園です。
1時間の延長保育も合わせると、一日12時間の保育です。
当然、授業と授業の間の休み時間、職員室で「次の保育に向けた準備時間」などといったものは、ありません。

労働基準法は、小学校教諭も保育士も区別なく、同一です。
基本的に、保育士の配置基準では、保育時間をすべてカバーすることはできません。

0歳児は特に注意が必要

保育園での、〇〇歳児という呼称は、非常に独特です。
園児の年齢を表しているとも言い難い表現です。

基準としては、当年度の4月1日時点での年齢を意味しています。
※ 保育園での年度は、4月1日から始まり、3月31日で終了します。

そのため、例えば、9月に途中入園される方の場合、「0歳児のお子さんですね」と確認すると、「いえ、先月に誕生日を迎えたので、1歳児です」と応えられるケースは多々あります。

保育園で「1歳児クラス」は、4月1日時点で1歳のお子さんが集まっているクラスなので、年度後半には、2歳になっている子が大半になります。

その中で例外が0歳児です。
0歳児は、当年度の4月1日時点で生まれていない赤ちゃんも含まれます。いわば、マイナス1歳児です。

生まれたばかりの赤ちゃんから、1歳の誕生日を迎えて既に元気よく歩き回るお子さんまでが0歳児になるわけです。

そんな子どもたちを見守る保育士の配置基準は、子どもが3人集まって、初めて保育士一人が割り当てられる、と定められています。

その激務、責任の重さ。想像いただけるでしょうか。

降車時の点呼 来春義務化

昨年の福岡県、今年の静岡県と、2年連続してしまった悲しい事件をうけて、上記のようなニュースが流れました。

子どもをバスから降ろす際に常に確認しているのは、保育所88%、幼稚園90%、認定こども園89%と、ほぼ同数の割合がアンケートから分かります。

ただ、これは施設側の返答なので、「『確認していない』とは言いにく、言いたくない」という心理的作用や、「当施設は実施しているはず」という、現場での作業と差異があるかもしれない、回答されるであろう管理者側の理解や思い違い等も勘案すると、実際に、常に確認している割合は、もっと低いとみるべきなのかもしれません。

換言すると、その程度の確認作業でも、今回のような悲しい事件は頻発せずに回っている、回っていた、ということにもなります。

その中で、新たな作業がさらに追加される、義務化される、ということは一つ、考えなければいけない点です。

子どもの命を守ることは大切です。
そのための作業を追加することで、今までの手薄な保育がさらに圧迫される可能性がある、というリスク認識は大切です。

配置基準の費用について

0歳児の配置基準を3対1ではなく、例えば、「2対1にしてはどうか」等、まずは思いつくところです。

保育園の財源は税金です。
保育士一人当たりの給与、という書き方をしていますが、全て保育士の口座に振り込まれるわけではありません。社会保険料、事業主負担分等、様々なコストがその中には含まれます。
当然、施設維持費、メンテナンス費用ですね。バスの購入費用だったり、エアコンのメンテナンス、施設が老朽化すれば、建て替えのための費用も含まれますし、園児の給食費用、施設の光熱費等もすべて含まれます。

結果として、現在、0歳児の園児一人当たり、毎月20万円以上の税金で運用されています。
配置基準を変更する、ということは、保育士の給与を下げない限り、0歳児の園児一人当たりのコストを毎月30万円以上にしますか?ということです。

その財源は、どこから持ってこれるのか。
さらに消費税税率を上げますか? ということにもなります。

とても大きな問題です。

配置基準を変更したら、それでいいのか?

もう一つ、あまり議論されているように見えないので、個人的にとても気にしている点です。

配置基準を改善する、ということは、今までの園児数に対して、より多くの保育士が必要になる、ということです。

現在、保育士不足が指摘されています。
2025問題、2040問題等、日本の労働者不足の問題も、今後、より深刻になります。

改善されて生じる不足分の保育士を、どこから補えばよいのでしょうか。
保育の質を向上させる配置基準変更が、保育士不足から「経験不要で資格さえ持っていればいい」という保育士の大量雇用につながり、逆に保育の質を下げることにもなりかねない。
この点は、とても大きな事項ではないかと考えます。

もう一点。
保育は社会インフラであり、大切なセーフティーネットです。

しかし、保育士採用スキル等については、施設間や法人間で、非常に大きな差異が既に生じています。

採用スキルだけではありません。
採用後の研修体制、人材育成体制は、もっと大きな差異があります。

これらを向上させるためには、一朝一夕には実現できません。
様々な情報を集め、組織体制を常に改善し続けるパワーが必要です。
そこへ時間を割けるほど、園長先生方に時間がないのが現状です。

すると、大手の法人、組織力の強い法人の一人勝ちが起きます。
施設間で勝敗格差がますます広がります。

社会インフラ、貴重なセーフティーネットで、サービス品質の格差が生じるのは、適切でしょうか。
大人の都合が、そのまま子どもの処遇に影響を与えてしまう。

私には、必ずしも良い方向とは思えません。

「貴重な社会インフラだから」と制度として守り過ぎて、施設としての努力有無が成果に全く影響しないというのも問題ですが、市場主義のように勝ち組と負け組の格差を放置することは、それ以上に大きな問題になります。

おそらく、大切なことは、子どもたちの保育環境に、社会の眼をもっと向けて、あるべき姿についての議論をもっともっと高めることと信じています。

待機児童問題が終息に向かう中、新聞、報道から「保育」という言葉が消えて久しくなっています。

子どもたちの成長にもっと目を向け、様々な場で議論を重ねること、関心を高めること。

強く期待しています。

「幾重の予防線を張っても、張りすぎることはない。」
幾重の予防線により保育士の作業量が一層増加し、「命を守る」べき他の作業が疎かになる、という視点も加えてほしい。

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