ぺんだんと 第七章 作:Erin

どうやら由梨と望月君はよくメールしあっているらしく、よく私の話を聞かれたそうだ。

「あたし彼氏いるし、従兄弟だから絶対ないよ」

授業を初めてさぼり、由梨と屋上で話した。
この時、べつに呆れたり腹を立たなかったりはしなかった。
只々、普通の二人に戻った気がして嬉しい思いでいっぱいだった。

「でも従弟同士結婚できるじゃん」

「遠い親戚ならね。瞬のお母さんとあたしのお母さん双子でね。あと何回も言ってるでしょ! あ・た・し・に・は・か・れ・し・が・い・る・の!」

由梨が丁寧に説明をしてくれる。でも『拓斗』とは言わない。気を使ってくれてるのかな?
 なーんつって。

「わかったって。てか望月君に余計なこと言ってないよね!」

「どうだろうねぇ~……ごめんね、いじめて」

まだワイワイはしゃぐのかと思いきや由梨がテンションを低くして謝った。

「確かに許されない事をしたけど、女ならあってもおかしくない事だよ。
だから……忘れよう?」

「……うん」

キーンコーンカーンコーン

その時ちょうどチャイムが鳴る。教室に戻った時にはとっくに授業が終わっていた。
ガミガミ先生に怒られたけど、普段の行いが良かったから何もされずに済んだ。

その日から、私は由梨と仲直りができた。

「ねぇ、ダブルデートしようよ!」

「はぁ!?」

時は流れ冬休み、由梨の家でごろごろしていた時だ。

ダブルデートって私

「彼氏、いないんですけど」

「いるじゃん、望月瞬って人が。家庭教師とか言っちゃって本当は一緒にいたいだけでしょこのやろう!」

由梨に肩をつつかれる。この人恋バナになるとからかってくるんだよね……

ピーンポーン

おやつの時間前にぴったりインターホンが鳴る。

由梨から他に人が来るのは聞いていないはず。

誰だろう?

「あ! 来た来た!」

由梨がスキップしながら玄関へ行く。私も気になり由梨の後にについていった。

「おじゃまします」

「よ!」

こ……この聞きなれた声は!

「拓斗と望月君!?」

「あたしがよんだの! さぁ入って入って!」

拓斗は靴をきちんと揃え、望月君は靴を適当に放り投げて入ってくる。

「ちょっと! 拓斗みたいにきちんと揃えてよ!」

「ったくうるせーなぁババァ」

わーっ、これって従兄弟同士のけんか? 私は従兄弟と喧嘩したくとないから羨ましすぎる。

「あの二人仲いいな」

いつの間にか隣にいた拓斗が話しかけてくる。

目があったことは何回もあったけど、別れた日以来会話をしていなかった。

「うん。やっぱ望月君とは由梨繋がりで知り合ったの?」

「いや、颯馬から。そういやー言ってなかったけど俺とその藤原颯馬は双子」

「そうだったんだ……え!?」

藤原颯馬といえば望月君とよく一緒にいて、私と望月君の時間をいつも遮る藤原君だ。

顔は似ていないから二卵性かな? 性格も似ていないし、たぶん。

「一緒に住んでないしお母さんも言わないから日高家は知らなくて当然」

「あはは、なんか傷つく」

もっと詳しく家族事情を話してもらいたいがドロドロな雰囲気がするからやめておこう。

「あっ」

拓斗と話してる間、望月君と由梨の言い合いも収まった。私の首元に望月君の視線がきている。

視線の先は、前に貰った銀色の星のペンダント。

「やっぱ似合うな、そのペンダント。さすが俺」

「俺様気取っちゃって」

由梨が突っ込む前に、自分の顔が熱くなるのが分かった。

ーーーーーーー

由梨が拓斗と望月君を呼んだ理由。それは……勉強会のため。

由梨と拓斗の成績は平均点くらい。窓際の机でイチャイチャしながら勉強している。

「Zzz……」

私はその二人から少し離れた机で望月君をいつものように教えている。

「望月君起きて!」

あいかわらずこいつを教えるのは大変だ。

「わりぃ……ていうか、望月って長いから瞬でいい」

「え、じゃあ瞬起きて!」

「ぷっ、もう一回言わなくていいよ」

望月君……じゃなくて瞬が笑った。また自分の顔が熱くなるのを感じた。

同時にドキドキして心臓に悪い。

「そういやー俺たちあと少しで2年生だ。みんな同じクラスだといいな」

瞬が無邪気に言う。私も同じだよ。由梨と瞬と同じクラスになりたい。

そして、中学校生活をやり直したい。

「それより勉強に集中しなさい!」

「イテッ!」

側にあった縫いぐるみで瞬を殴り、勉強を再開した。

3学期も始まり、2月になった。息をはけば白い息が出てくる。寒い。

「夏美おはよー!」

登下校も由梨と一緒に行くようになった。

「あのさ由梨、美雪とか璃子の視線がこの頃痛いんだけど……」

「あと2か月なんだから大丈夫だよ」

「そう……かな?」

大丈夫、ではなかった。

教室を入った瞬間、私だけじゃなく由梨まで無視された。

どうせ由梨が私と仲良くしているから、いじめの標的になったのだろう。

本当に恐ろしい。……これ言ったの何回目だ?

「由梨……ごめん」

「え、なんで夏美が謝るの? 忘れろって言ったの夏実でしょ?」

「……そうだった、ね」

朝っぱらから力が出ない。由梨はあと2か月だっていうけど、本当にそうなんだろうか。

もし璃子たちとまた同じクラスになったら? 

うわさがまだ広がっていたら?

そう考えると寒気が襲ってくる。友達だけは、巻き込みたくない。

私はカバンについているあのペンダントを触ろうとした。あれは私の癒し道具……ってあれ? 

いつもつけてあるのに……ない!!

「由梨!」

私と誰かの声が重なる。瞬だ。由梨は私の声に気付かなかったみたいで、瞬のところへ行ってしまった。ど、どうしよう……

ーーーーーーー

昼休み、お弁当を食べ終わると由梨に協力してもらってペンダントを探した。

「なんで瞬に協力してもらわないの? あいつ探すの得意だよ」

「だめだよ! なくしたって気付かれたら……」

涙が出た。嫌われる、あきられると思ってしまって。

由梨が探すのをやめて涙を拭いてくれる。

結局昼休みは終わり、ペンダントは見つからなかった。

「ひーだかさーん♪ 探し物はこれかな~?」

しまった。なんで誰かに取られたって思わなかったんだろう。

放課後、璃子たちにつかまった。由梨は部活でいない。

「そ、それは大事なものだから、返して!」

強引に奪おうとしたけど周りの女に囲まれ囚われる。

剣があれば抜け出せるけど、手ぶらじゃ何もできない。

「これ、望月瞬からもらったんでしょ」

え、なんで知ってるの? 璃子は私の考えが分かったように言った。

「瞬と由梨ってたまに廊下で話てんじゃん? それで聞いちゃった」

うそ……
「あと璃子の好きな人まで奪おうとしやがって、この男好き!」

美雪が璃子の後ろからヒョイと顔をだす。

璃子の好きな人を奪った記憶もないし、そもそも誰かも知らないし言っている事はわからないけど。

「美雪、それはもういいって」

璃子は美雪の発言に怒りが増したようで、ペンダントを握る手が強くなった。

そんな手で、ペンダントを窓から放り投げようとした。

「や、やめて……!!」

なのにーー