2020年9月17日

 毎月なかばのフィラリア予防薬投与。トレーニング成功のごほうびのふりをして与える。こなつはよろこんで食べる。ほんのひとつぶなのにがつがつと食べるのが可笑しくてかわいい。
 フードはブリーダーFさんの目安より早く上げている。すでに成犬なみの量である。
 こなつは私の家に来てからフードのひとつぶたりとも残したことがなく、目安より多くやっているのに、アンバランスなほど四肢の長い、たいへんな痩せ型である。運動が多いためだろうか。
 先だってのワクチン通院では、全身をモフモフと診察した獣医さんから「実に健康」「とてもいい筋肉」と褒められた。実際のところ、こいぬなのにアスリートのごとき筋肉質である。散歩デビューしたら一緒にいっぱい走ってやろうと思う。

 薬以外にはじめてフードでないものを食べさせてみた。加熱したキャベツの葉をひとつまみ。こなつは喜んでたいらげてきちんとおすわりし、「これはいいものだ」というようにぺろりと舌を出してしっぽを振っていた。かわいい。散歩デビューして道端のものをかたっぱしから食べそうで心配である。虫とか。コオロギはうまいと聞くし。

 リード訓練は順調に進んでいる。最初はリードを噛みたがって玄関まで歩かせるのもひと苦労だったけれど、すぐにリードを放って(口にキープしたりもせず)、てくてくと上手に玄関まで歩くようになった。
 だっこ散歩に必ずリードをつけて行っているのがよかったのかもしれない。「あれをつけて歩くとよいことがある」と思ってくれたならしめたものだ。今では私がリードを取り出すとしっぽを振って「行きましょう、ええもうぜひ行きましょう」という仕草をする。

 こなつはだっこ散歩が好きだ。キャリー散歩に飽きた前歴があるので、だっこ散歩でも地面に降りたがって暴れたりしないかなと思っていたのだけれど、今のところ問題ない。だっこして歩いていると耳をぴこぴこ動かしてきょときょとしながらよい子にしている。さすがに腕から飛び降りる気はないようだ。適宜姿勢を変えたりして、私の腕の中に慣れたようである。抱き直すために動かしたり片手で持ったりしても大丈夫だ。
 だっこ散歩は隣の公園をはじめ、駅前や商店街に行っている。音やにおいはキャリー散歩でも感じられたと思うけれど、だっこ散歩では退屈そうなそぶりを見せない。臨場感が大違いなのだろうと思う。

 公園でだっこ散歩をしていると他犬が寄ってくる。昨今の飼い主さんたちはワクチン期間中だと察して物理的な接触を避けてくれる。そして犬たちは適宜こなつに顔を向けて声を出したりしてくれる。いずれもたいそうありがたいことである。
 こなつは今のところ他犬に怯えたことはなく、だっこ散歩中はつねに楽しそうだ。どの人間も好きなのだと思っていたが、どの動物も好きなのかもわからない。いいことである。
 散歩デビューしたらリードをつけた状態でしばらく犬づきあいをさせて、無礼がないように見張っていようと思う。物心ついたとはいえ、まだまだ度胸がありすぎるから、他犬に無礼をはたらくといけない。
 いざというときにこなつをさっと回収できるように腕を鍛えておこうと思う。現在3.2キロ、成長したら7キロから10キロになる。こなつはかなりの痩せ型で、両親犬(ブリーダーFさんのところで面会した)も脚と胴の長いすらりと細身の犬だったから、おそらく10キロは超えないだろうが、それにしたって重い。強くて野性的な犬が私の好みで、だから柴にした。オーナーにも体力が必須である。

 区役所に行ってこなつの鑑札をもらう。法律でいつも首につける義務が課されているものだ。私の地域の鑑札はかわいい犬のかたちをしている。こなつにはわからないことだけれど、飼い主としては少し嬉しい。こなつは公にも私が責務を負う犬なのだ。私の犬、私のこいぬ、私の元気で綺麗な柴犬。

 こなつは朝晩のリビングフリー(運動とトイレトレーニングの時間)にはそりゃあもうアグレッシブだが、それ以外にかまう時には「運動でない」と理解したようだ。近ごろは抱いてソファに座るときにもいい子にしている。落ち着いてブラッシングなどができて助かる。こなつはまったりを覚えたねえ、と私は言う。いいですね、まったりしてください。
 朝晩のリビングフリーは予防接種の日をのぞいて必ず実施しているが、それ以外にケージから出す時間帯や回数は決めておらず、人間の都合で出す。主に撫でたりブラッシングしたりする時間である。私はこの時間を「エクストラ・モフ」と呼んでいる。朝晩のリビングフリーは「ハイパーこいぬタイム」である。
 ハイパーこいぬタイムにおけるこなつは思いきりからだを動かし、理性をうしなって人間の手足を噛みはじめる。リビングでゆったりしてくれない。そこでエクストラ・モフを少しずつ伸ばすことを画策している。最終的には終日リビングフリーにしたいので、落ち着いて人間のそばにいる練習をさせる必要があるのだ。あと私がリビングでこなつと一緒にいる時間をもっと増やしたいから。

 換毛は落ち着いてきた。ブラシにつく毛があきらかに減った。そして抜けた毛より太くて長い被毛が生えてきた。色も赤毛に(柴の標準的な茶色は赤と呼ばれる)黒と白が複雑に混じり、背は上のほうに黒が混じり尾は内側が黒く付け根に白い輪があるなど複雑で、いかにも柴らしい。おとなですねえと私はこなつに言う。おとなのダブルコートですねえ。
 感情表現も複雑さを増した。いいことがあるパターンを覚えたらしく、たとえばリビングと次の間の境目の扉を閉めると「出してもらえるのかな」と期待する。ちがうとわかるとしっぽの巻きをほどいて垂らす。いかにも「がっかりしている犬」という感じでかわいい。

 褒めことばは「よし」「よしよし」と決めていて、あとは感情のまま人間のためのことばを使っている(「おおなんとすばらしいこいぬでしょう」「こなつはいいこ、こなつはおりこう」など)。こなつは私の思惑通り、「よし」は自分への褒めことばだと覚えてくれたようだ。
 それはいいのだけれど、私の独り言の「よし」にも反応する。仕事が一段落したとか、家事が終わったとか、そういうタイミングで「よし」と言ってしまうと、ケージの中にいるこなつがさっと立ち上がり、ぴかぴかした目で私を見る。「いぬを褒めましたか」「こなつにごほうびですか」とでも言いたげだ。
 こなつは何もしていないでしょうと私は言う。今のはこなつに言ったのではないよ。こなつはしばらくしっぽを振ってから、なんとなく水を飲んだりして座る。

 こなつの新しいおもちゃをおろした。噛むと音が出るおもちゃだ。綿のロープ、綿のボール、木のカミカミに続く四つ目のこなつの資産である。与えると大喜びで抱えこんで噛んだ。そして十五分で破壊した。飲みこむと危険なので部品の綿ロープだけ残して取り上げた。すごく気に入っていたのでかわいそうである。
 しかたがないので音の出るおもちゃの丈夫なのをひたすら探して注文した。今までのおもちゃの合計額を上回る高価格帯の品である(外見はとてもそうは見えないのだが)。十五分よりは長くもってほしい。

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