2020年10月17日

 こなつがフード前に騒がなくなった。
 次の間でフードを用意していると、その音を聞きとがめてキャンキャン騒いでいた。来た日から一貫して毎回毎回そうしていた。それがここしばらく小声になり、とうとう声を出さなくなった。それでどうしているかといったら、自発的にケージに入っておすわりしていい子の顔で待っている。フードの皿を置いたあとの「待て」も上手にできる。時々は手を添えなくても待てる。
 あんなに騒いで、フードが来ればケージの天井に頭をぶつけるほどに飛び跳ねて、「待て」のあいだじゅう私の手に前足をかけてこらえていたのに。私と私の子犬は毎日毎日朝晩ずっとそうしているような気がしていた。
 でももちろんそうではない。こなつはどんどん大きくなる。大きくなって、できることがどんどん増える。私はもちろんそれが嬉しい。とても嬉しい。嬉しいけれど、少しさみしい。小さい小さいわがままこいぬよ。世界一かわいいやっかいものよ。制御不能な私のけだものよ。来た日からことあるごとに口をついて出るそういうせりふを、おりこうさんの前でそっと飲み込む。

 毎月15日のフィラリア予防薬。こなつは相変わらずうまそうに薬を平らげる。この薬剤はマダニとノミの防止も兼ねている。

 リビングフリーの時間を増やした。朝起きたらこなつをケージから出してひとしきり甘えさせてボールなどで遊ぶ。それから放っておいて自分の朝食をとり、こなつにフードを与える。こなつを自由にさせた状態で身支度をする。こなつの散歩に出かける。帰ったら再度、私の出勤まで自由にさせる。晩も似たようなもので、まず散歩に出かけてからフード、人間の食事をはさんでリビングで一緒にいる、という順序が多い。そのうちリビングで寝てくれないかなと思っている。今のところはケージに入れるまで元気に遊びまわっていて、入れるとおおむね寝そべっているか寝ているかである。あおむけでお気に入りのロープを噛むのが定番と化した。
 リビングのローテーブルの上のものはなんでも舐めたがるので、今はその都度「だめ」をしている。ただしあんまりわかってはくれない。興奮していると手足を噛むが、そういう時の「だめ」も通ったり通らなかったりだ。
 「遊びたい時には噛まずにおもちゃを持ってくるんだよ、そうしたら遊んでもらえることがある。もらえないこともある」と言い聞かせている。犬は言葉がわからないのに、興奮していない時にはボールやらロープやらを持ってきて、放っておくと私の手足をぺろぺろ舐める。
 歯の痒みが取れてきたのかなと思ったけれど、乳歯はまだわりと残っている。いくつかは抜けたみたいだ。乳歯がとても小さいからか、抜けた状態のものはなかなか見ることができなかったのだけれど、ひっぱりっこ中にたまたま奥歯が抜けた。なんとなく洗ってとってある。

 こなつの犬づきあいは順調である。近所に犬が多いのも幸いして、毎日複数の犬にあいさつをし、時々遊んでもらっている。先だっては一歳のスタンダードプードルに遊んでもらって大喜びしていた。そのうちどうにかしてリードを外した状態で思いきりプロレスごっこをさせてやりたい。
 犬に吠えられる経験もした。公園で黒柴のオスに思いきり吠えられたのだ。こなつは距離を置きつつ「遊んでくれないかな」と周囲をうろうろし、再度吠えられていた。つくづくチャレンジングな子犬である。
 黒柴の飼い主のおじいさんに謝ると「構わない、近寄ってはいけないといったことを人間が判断すると犬のためにならない、子犬でも相手を見て自分で判断する経験が必要だ」というようなことを言いつつ、合間合間に自分の犬を「おまえうるせえぞ」と叱りつけていた。犬の経験は尊重するが人間が感じるうるささも表現する。良い飼い主と思った。あとちょっと面白かった。こなつは遊んでもらえないとわかったのか、すごすごと引き下がった。

 近所の人たちもこなつを可愛がってくれている。犬連れの人々のほか、理髪店の一家、それに角打ちの店の店員さん二人もかまってくれる常連さんである。客いり前だと「出たー」と言いつつ店を出てきてひとしきり撫でてくれる。先だってはデレデレボイスで「毎日が冒険だねえ」と言っていた。子猫を飼っているそうだから、幼少期の動物はすべてが珍しいとよく知っているのだろう。

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