2022年4月15日

 こなつはもうすぐ二歳になる。
 二歳の誕生日には新しい首輪とリードを買ってやろうと思う。公園朝メンバー(自宅のすぐ横の、こなつが毎日行く大きな児童公園に朝やってくる犬たち)の柴犬Kくんがいくつも首輪リードセットを持っていて、つけかえておしゃれをしているのが少しうらやましいのである。まずは一色買って、良さそうなら色違いを買おう。
 犬自身はおしゃれなんかどうでもいいので、ケーキとおやつも用意する。ケーキはウェットフードを水切りヨーグルトでデコるのが定番化した。おやつはプレゼントと称してクリスマスと誕生日にセットを買ってやり、半年かけてちょっとずつ与えている。ふるさと納税にちょうどいいセットがあるので、ゆかりのある土地を選んで返礼品をもらったりもしている。

 こなつはおやつの少ないほうの犬である。
 公園朝メンバーの飼い主さんの中にはお年寄りが半分くらいいて、彼らは惜しみなくよその犬に大量のおやつをくれる。若犬たちはもちろん彼らに寄っていっておやつをもらう。私はこれを問題視しない。小さくしてもらうようにお願いするくらいである。私だってよその犬におやつをやるのは好きなのだ。隣の公園にはとにかく大量の犬が来るので、おやつを出すとハトみたいに群がってきて、犬好きにはこたえられない。ポジションをめぐって小競り合いが起きたり、気の弱い犬が他の犬の後ろからおずおずとこちらを見ていたりする。ほんとうにかわいい。
 あまりに犬たちがかわいいので、「すべての犬に好かれたい」という私欲全開で数種類のおやつを携帯し、すべての犬に全力で媚びている。アレルギー対応、好き嫌い対応、老犬向け、ダイエットにいいもの、大型犬向けサイズ、なんでもござれである。喜ぶ犬もさほど喜ばない犬も気まぐれな犬もみんなかわいい。
 若めの飼い主さんたちは昔ながらの練り物のような犬用おやつではなく、自然素材のおやつをごく少量ずつあげる人が多い。私もこの派閥で、こなつ(およびこなつの友犬たち)にあげる市販品のおやつは鶏・豚・鹿(昨今は駆除害獣の有効活用として犬用に加工するのだ)などの肉や内臓を干したものである。薄切りの干し肉は手でちぎりやすく手間がかからない。しかしこなつは内臓系がことのほか好きなので、鶏の砂肝とブタミミのどちらかも常備しており、そのためだけに買った枝切りばさみでせっせと小さく切っている。犬用煮干しもほぼ常備品である。煮干しは人間もたまにつまむ。
 市販のおやつは外での他の犬との交流やトレーニングのために買っているようなものだ。家の中ではハウスとクレートのトレーニングの時くらいしかやらない。自炊をやっていると犬にやれるものがけっこう出るので、家の中ではそれをおやつにしている。
 野菜の皮や切れ端が好きなのは以前からだが、この数ヶ月はバリエーションが増えた。調理過程で出る野菜の不要部分のうち、犬が食べてはいけないもの・食べていいかわからないものと加工が面倒で私がやりたくないもの以外はだいたい口にしているのではないか。料理をしていると「これはこなつが食べるだろうから捨てないでおこう」としょっちゅう思う(同居人までも)。米もたまに少しやっている。米に違和感がないと災害時などに良いと思う。
 タンパク質はさらなるごちそうである。鰹節の出し殻、豆腐の切れ端、容器に残ったプレーンヨーグルト、卵黄を料理に使ったときの卵白。卵白はレンジでしっかり火を通して小さじ半分ずつくらいを一回分のおやつにしている。そんなわけで冷蔵庫の中には常にこなつのおやつ用の小さいタッパーがある。
 台所仕事をしているとこなつは何かもらえるのではないかと背後で待機し、ときどき空中をふんふんかいでいる。煮炊きのにおいがするからだろう。私が振り返って野菜の切れっ端を示すと目をきらきらさせておすわりする。安上がりな犬である。最近はだしを引いたあとの昆布をガム代わりにくちゃくちゃするのが好きである。
 それから、老犬の飼い主さんから米と魚でできた老犬用フードをもらい(それも食べられなくなったという理由でたくさんもらった)、こなつはそれがことのほか気に入ったようなので、購入しておやつにしている。よその犬にあげるおやつも三周目以降は「そろそろこれにしておきなさい」と言って老犬用フードにしている。たいていの犬はこのフードを喜んでおやつとして食べるし、飼い主さんとしても「総合栄養食」というカテゴリなので安心であるらしい。

 こなつは半年ほど下痢ひとつしていない。丈夫な犬である。しかし一度軽い脳しんとう(推定)を起こした。
 だいぶ落ち着いたとはいえ、こなつは基本的に気が散りがちで動きがやたらと速い。道を歩いていてすれ違った犬に気を取られてカラーコーンにぶつかったこともある。脳しんとう(推定)を起こしたのは公園で二本足で伸び上がってベンチの向こうを覗こうとしていたとき別のものに気を取られてよろけ、すぐ横にあった公園灯の柱に頭をぶつけたためである。ごん、と音がした。
 私は泡をくってこなつのけがを確認した。本犬は「なあに」という顔をしている。キャンとも言わなかった。とりあえず様子を見ながら帰ろうと歩き出すと、少し歩いて私を見上げる。「なんか変なんですけど」という感じだ。幸い隣の公園にいたのですぐ帰れたのだが、帰るなり玄関で踏ん張り、朝に食べたフードと公園でもらったおやつを吐いた。まだしていなかったフンもした。
 動物病院に電話すると、ようすを聞かれた。「そのようすで吐いたのが一回(何回かにわけて吐いたが、単に吐ききれなかったという感じなので一回というカウントのようだ)なら、しばらく見てあげていてください。時間を置いてまた吐いたらすぐに連れてきてください」とのことだった。
 幸いその後はいつものように昼寝して夕方にはフードをばくばく食べた。その後も元気である。ただ、朝の散歩前にフードを出しても頑として食べなくなった。フードを食べて散歩して他の犬とプロレスや追いかけっこをしたことより(それで吐く犬もいるようだが)、頭をぶつけたのが原因なんだけどなあ。
 私はその後毎日、夜にソファでくつろいでいるときにこなつの頭を撫で、「おはちを大事にしなさい」と言い聞かせた。こなつのおはちはひとつしかないのですよ。

  

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