2021年4月30日

 こなつはドッグランになじんだ。
 行く時間帯にもよるのだけれど、小一時間待っていればだいたい他の犬が来てくれる。毎日行く公園でよく会う柴犬仲間からは「すでにグループができていて『アウェーな感じですね』なんて言われてリードも外せなかった」というエピソードも聞いたのだが、こなつは今のところそういう不運には遭っていない。もっとも、こなつの場合は飼い主がずうずうしいので、すでにできあがっているグループから「アウェーな感じですね」と言われたとしても、「そうですね、そういう雰囲気の人ばかりのこともありますね。皆の場なのにねえ」くらい言うが。

 ドッグランにおけるこなつの主な遊びはかけっこである。
 こなつの行きつけは規模が小さく細長いランで、私がよく行く休日の午前にはこなつだけしかいないこともある。こなつは一頭でいるときは軽く走ったり虫を追って跳ねたり探索したりして、それなりにしている。ときどき私のところに戻ってきて水やおやつをもらい、また出かける。おりこう。
 他犬が来ると(あるいはランに着いた段階でいると)、飼い主同士があいさつし、まずは柵越しに犬を対面させる。大丈夫そうなら見守りつつ自由にさせる。ランに来る犬はそれなりに社交性があることが多いし、こなつも初対面の相手にはそれなりに距離感を探り(これはリードがついていても同様である)、遊んでもらっていて相手が疲れたタイミングでもしつこくせず、自分が困ったら私に助けを求める程度には成長しているので、今のところうまくいっている。
 他犬が乗ってくれれば追いかけっこをする。遊び上手な犬ならリードしてくれるし、そうでなくても乗ってくれることが多い。こなつがリードするときには相手に顔を向けて「ほれほれ」と挑発し、追われるとダッシュして振り返りつつターンなど決めて逃げ回る。ものすごく速い。よその犬に追いつかれたことがない。
 こなつはふだんから小型犬離れした散歩量だし、家でもよくダッシュしているが、屋外のドッグランを使いはじめたのはつい最近である。そんなのどこで覚えてきたんだと思う。

 屋外ドッグランデビュー以前にも走るのが好きな兆候はあった。
 朝はだいたい決まった時間に歩き(休日にはルーティンを崩す目的で時間をずらす。ルーティンにすると要求するようになるので、「まあそのうち行けるだろう」と思わせるのがよいのだそうである)晩から夜は人間の仕事などの都合に合わせて散歩する。そうすると夜の公園にはさまざまな犬がいる。とくに驚いたのが「ダッシュ犬」である。そう呼んでいるのは私だけで、名前はなんといったか、時間がずれているためか一度しか会ったことがない。
 かれはボストンテリアで、飼い主さんは胴体に回すタイプの両手があくリードを使っていた。そして公園のフリースペースを猛スピードでダッシュするのだった。
 こなつはあんぐりと口をあけてそれを見ていた。「まじで?」とでもフキダシをつけたいような様子だった。そして私を振り返り、「あれをやる」と主張してきかないのだった。
 しかたがないから私も走ってやったのだが、運動量を増やしたくて公園で一緒に走っていた赤ちゃん犬のときとは筋力がちがう。速すぎてついていけないし、あっというまに息が切れる。こなつはこなつで闇雲にリードを引くのではなく、私を見やって速度を調整するだけの知恵がついているので、それはもう頻繁に振り返って「なにしてんだよ」とでも言いたげに少しずつ速度を上げる。しまいには「遅い!!」とばかりにかんしゃくを起こしてリードを噛んで私に叱られた。
 いいか、こなつ、よそはよそ、うちはうちです。おまえの飼い主はあんなふうに走れない。
 私がそのようにこなつに説教をしたので、「ダッシュ犬」を連れた夫妻に大受けしてしまった。私はぐずるこなつを引っ張って公園を出た。

 ことほどさようにこなつは走ることが好きである。しかしドッグランに行っても自分一頭だけだとそれほど走らない。誰かに追ったり追われたりして一緒に走るのがいいようなのだ。犬はつくづく社会的な動物である。
 そうしていかにこなつといえど、体力は無限大ではない。ドッグランで走り回った日でも、しばらく寝たら夜の散歩にははしゃいで行くのだが(たいしたものである)、三十分も歩いて帰ったらもう電池切れだ。人間がリビングでくつろいでいるときに「遊んで遊んで」とねだることもなく、犬ベッドでぐうぐう寝る。なんなら自分で犬ベッドを好きな位置に引きずっていってそこで寝ている。人間の近くで寝たいときとソファの裏など陰になるところで寝たいときがあるようだ。
 夜に人間同士でのんびり飲みたいときにはドッグランにかぎるな、と飼い主は思う。時勢で外のみができないから、家で誰にも(犬にも)邪魔されず酔っ払う時間も必要だ。こなつはまだまだ不規則に動き、目を離すといたずらもする。知恵がついたぶんだけ、やってはいけないとわかっていることをして人間の気を引こうとしたりもする。だから夜に人間がのんびり酔っ払いたかったら明るいうちに日に当ててばかみたいに走らせてぐにゃぐにゃに疲れさせるのが吉というものである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?