2020年9月20日

 こなつのトイレトレーニングに進捗があった。その他の成長ぶりに比べてトイレの進みがよろしくない気がしていたのだが、この数日で一気に進んだ。
 まずは留守中にケージ内のトイレを上手に使った。私が職場に出て仕事をしている日だった。外にいるときにはまめにペットカメラをチェックしているのだが、たまたまほぼリアルタイムで目撃した。私は感激し、しかし「うちの犬がトイレを上手にした」と言える相手が職場にいるはずもなく、喜びを抱えて自宅に戻った。
 犬ができごとの因果関係を理解できるのは数分とされている。いいことも悪いことも、すぐに反応しなければ時効なのだ。それでも私はこなつをほめた。私のために。そのような快挙が続いている。

 ケージの外に出している時間のトイレも向上した。ケージを出てちょっと私に甘えてからすたすたとトイレに直行し、確信をもって正しくおこなう。これまた数日続いている。私はそれはそれは喜んでこなつを褒めたおす。こなつはリビングを高速で二周して私に体当たりする。嬉しそうである。ただし、調子に乗ってペットシートをくわえて走り出すのは相変わらずだ。追うと遊びと間違えるので、できるだけ無表情のまま足で踏んで止めて回収し、その後はメッシュのトイレトレー(こなつがケージの中で上手に使っているもの)を出すことにしている。
 ある日には立て続けに三度上手にトイレを済ませた。ご褒美も三回、ハウスでもうひとつ。この日のこなつは実に冴えていた。こいぬロイヤルストレートフラッシュ、と私は言った。この一週間、粗相をしたときの消臭剤が減らない。マットも綺麗なままだ。でも習慣になってしまって、なんとなく毎日洗っている。

 こなつはこのままこいぬではなくなるのだろうか。あまりにも成長が早い。毎日おりこうさが増している。私はこなつと遊んでいるばかりで、厳しいトレーニングなんかひとつもしていないのに。こなつを見ていて上手にできた時に褒めているだけで、ほかにはなんにもしていやしないのに。どうしてこんなにおりこうなんだろう。そんなにおりこうでなくてもいいのに。

 こなつは健康で遊び好きで天真爛漫で人なつこくて学習能力が高い、ほとんど理想的なこいぬだと思う。私は嬉しい。嬉しいけれど、そんなに早く大きくならなくてもいいのに。もっとたくさん面倒をかけてもいいのに。心配させてもいいのに。
 そんなに早くおとなにならなくていいのに。人間に換算したらまだ小学校に入ったばかりの月齢なのに。私のうちに来てから、まだ一ヶ月と半分しか経っていないのに。私はこなつに、ぜんぜんたいしたことをしてやっていないのに、どうしてこんなに毎日毎日かわいくておりこうなんだろう。

 こなつを三度目の風呂に入れる。犬の常で水は嫌いである。泡を立ててこしこし洗っている時にはおとなしいが、シャワーヘッドを動かすともうだめだ。私の背に回り腹によじ登る。こなつがとうとう観念して泡を落とさせる頃には、私のからだに細かい傷がいく筋もできている。
 こなつはそれでも一声も上げない。前後は浴室を探検してしっぽを振っている。ほんとうに陽気で手のかからない犬である。かかりつけの動物病院併設のトリミングでシャンプーをしてもらうと一回五千円なので、家でできるとおおいに節約になる。何より私はこなつのことをできるだけ多く担当したい。

 ただし、爪切り以外は。爪切りだけはプロにまかせたい。爪切りだけは怖い。かかりつけの動物病院では爪切り一回五百円である。安い。今後もありがたくお世話になるつもりだ。
 爪切りを含むすべてのトリミングにサービスで簡易な診察がついてくるので、それもありがたい。そのことを人に話したら、「それはすごい」と言ったあと、「とてもありがたいね、でももしかしてその獣医さんは経営的な理由以前に、いろんな犬をモフりたいだけなのでは……?」と言われた。まあそうだろうと思う。いい獣医さんである。

 連休なので来客が続いた。ひと組は若い女性ふたり、もうひと組はふたごの男の子とその親とさらにもうひとり。合計六名の来客祭りである。若い女性たちはいずれも生家で犬と暮らした経験があり、犬あしらいがとても上手い。こなつはご満悦だった。
 こなつは小さい子どもたちのことも怖がらなかった。それどころか最初からお耳ぺたんでしっぽぶんぶん。興奮して甘噛みが出ないよう適当な時間でケージに入れると、子どもたちをじっと見て、次にかまってくれるのを待っていた。子どもたちがダイニングに行くとキャンキャン鳴いて「来てよう」と呼ぶ。普段は呼び鳴きを叱るが、今日は叱らずケージのそばにいてなだめた。子どもたちと公園に行って遊ばせたら、私の腕から子どもたちを見上げてシャツだの手だのを一生懸命舐めていた。
 子どもたちは最初、興味深いのとちょっと怖いので、ソファの上に立ってボールを投げていたが(お土産にゴム製のボールをくれて、こなつはたいそうそれを気に入った)、すぐに床に座ってこなつと遊んでくれるようになった。犬の可愛がりかたを覚えてくれたようだ。ワクチン期間の終わりにいい刺激を与えることができたと思う。

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