2020年11月1日

 こなつを迎えに行く。
 社会化のために保育園的なところにこなつを一週間あずけた。こなつが二ヶ月半のときにうちに来て以来、こなつと離れた。それで週末はちょっと福島まで出かけた。なにしろ朝起きても晩帰ってもこなつがいないのである。散歩にも出かけない。夜リビングでかまってほしいこなつにふくらはぎを甘噛みされて叱ることもない。そりゃあもうさみしい。さみしいので出かけた。
 保育園というのは正確な表現ではなくて、サービスを提供しているペットショップは「社会化お泊まり」といっている。犬の群れの中で思い切り遊び、犬同士のコミュニケーションを学び、基本的なしつけも集団で受け、その過程を犬プロが観察し、今後のアドバイスなどもするというものである。
 こなつはたいそう元気でパワフルなこいぬで、飼い主である私は「とくに芸とかできなくていいので、やたらとおやつをやって気を引くタイプの保育園じゃないところで犬コミュニケーションを学んでほしい」という要望を持っているので、合うところを探した。
 そうしたらその合宿の主たる対象はパワフルすぎて飼い主を悩ませるような犬たちであったらしく、こなつはわりと扱いやすいほう、切実な問題がないほう、みたいな感じだった。そうか。
 たしかに私はこなつと暮らして困ったことはない。パワフルですぐ退屈するが(うちに来た初日から「あーたいくつだ、たいくつだ」と訴えていたこいぬである。生活環境が変わった疲れとか私に対するおびえとかがまったくなかった)、よく見てこちらが推測すれば行動原理はわかりやすい。待ってやればたいていのことができる。コミュニケーションをとりやすい。そういうのは扱いやすいといえるのかもしれない。

 他人に預けると家では出ない顔を見ることができる。預けた日にこなつの胴輪が抜けた話をし、首輪で散歩することにした。それで預け先の店長が首輪をつけて散歩に行ったら、こなつはビタッと止まって見たことのない目つきで店長を見た。店長いわく、「なんであんたの言うこと聞かなきゃいけないのよ」「あとこれ(トレーニング用の引くと締まる首輪)なによ、外しなさいよ」だそうで、ほんとにそんな感じだった。私は驚いてこなつに言った。あんたそんな頑固だったの。知らなかった。
 知らない人の言うこと聞きたくないんだと思いますよ、でもまあ今のうちにわかってよかったですね、と店長は言い、私はうなずいた。店長の見立てによれば、こなつは我が強いタイプ、度胸もある、プライドが高い、対応を間違うと噛み犬になるかもしれない、今は大丈夫、性格は明るくて闇がない、犬に対して社交的で犬同士のあいさつもすでにできる、とっくみあいのような遊びは経験が少ないみたいだけど覚えたらとても楽しむだろう、ということだった。いま柴犬のめんどくさい性格の子がいるんで、と店長は言った。こなっちゃん、相手してやってくれよな。あいつ他の犬にぎゃんぎゃん吠えるくせにほんとは遊びたいんだよ。

 この日を皮切りにこなつの合宿がはじまった。毎日複数回の写真とテキストが送られてきて、それがとても楽しかった。こなつ本犬を入れて四頭の柴子犬のいる群れの中で、こなつは毎日楽しそうだった。
 店長の思惑どおり他犬に吠えがちな同月齢の柴犬と朝からギャンギャン叫び、チワワやトイプードルなど小さい犬たちの遊びに手を出し、先輩犬に目をつけられ、誰にでも寄っていっては相手にされたりされなかったりし、店長の散歩は最後まで拒否し(柴の子犬三頭からまとめて拒否されている写真が送られてきて申し訳ないんだけどめちゃめちゃ受けた)、ついでのように「ふせ」を教わった。

 こなつは家で「おすわり」「まて」はできていたけれど、「ふせ」はなかなかしなかったので助かった。「ふせ」は「みて」とセットで教わるこの合宿の名物らしい。
 店長が言うには「うち(預け保育としては妥当な範囲の金額だけれど、7泊からなのでまとまった価格。場所も都心で、顧客の愛犬には被毛の維持にお金のかかるトイプードルなどが多い)に来る子たちがもらっているのはプレミアムフードだぞ。お客さまの尊い労働で健康に良い高いフードをもらっているんだ。『いただきます』をしろ」ということだった。
 理屈で言うと、動けなくなる姿勢である伏せを毎日複数回やらせておけばいざというときに犬を止めることができて生活上の利点が大きいし、「服従の姿勢」でもあるから、これができないと他人に預けることがしにくくなる。だから食前の「ふせ」トレーニングは有益である。しかし店長の言う「いただきますをしろ」はもう少し感情に基づくもののようで、おもしろかった。

 こなつは「犬に拒否されることもある」「長時間遊んでくれる犬もいる」「吠える犬もいる」「とにかく世界にはさまざまのことがある」と学んだらしく、迎えに行くといささかしょんぼりしていた。疲れが出たのだろう。私を見ると「おう、来たか」みたいな顔して私の後ろに回り、「そろそろ帰ろうぜ」みたいな感じだった。私としてはもっとこう、感激してしっぽびゅんびゅんお耳ぺたんの、ブリーダーさんから引き取ったときみたいな顔してくれると思ってたんだけど、そうじゃなかった。
 散歩はとにかく警戒してすぐ立ち止まるのでたいして歩かなかったけれど、店長いわく「自分たちがやるよりずっと歩く」「この子は強いから帰ればすぐ歩くようになる」ということだった。私としては無鉄砲が直っただけで感激である。

 こなつはケージでしか寝ず、リビングに出すと眠くてぐずりながらも遊びたがるので、ケージに入っている時間が長い。お留守番は上手だけれど、私の仕事の都合でお留守番をするのもややかわいそうだ。そう思っていたのだけれど、それはとくに問題ないらしい。「ケージトレーニングは重要」「オンとオフがあるのは大切なこと」「ルールがあいまいなリビングフリーは弊害が大きい」「このままいろんな経験をさせて、今までどおりお散歩もいっぱいしておけばいい」ということだった。安心した。
 それより他人の言うことを聞かない頑固さのほうが心配になってきた。いろんな人に「おすわり」とか「ふせ」とかをやってもらおう。
 こなつは電車は平気のへいざなので、クレートに入れて地下鉄に乗せて帰った。

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