2020年9月2日

 こなつの甘えっぷりは相変わらずだ。尾もだいぶ丸まって手足も長くなり、被毛まで生え替わりつつあるというのに、まったく赤ちゃんである。そうかと思うと突然リビングを三周ばかり犬走りして運動能力を見せつける。こいぬは走る。こいぬはつむじ風のように走る。コーナーでもほぼ減速せずみごとに曲がる。
 私はあんなに早く走れない。こなつは走るのがとても上手だ。誰に教わったわけでもあるまいに。それとも生後二ヶ月半までいた犬舎で成犬たちの運動の時間を見せてもらったのだろうか。

 いよいよもって散歩デビューが近い。待ち遠しい。こいぬは散歩という行為自体をしらないので、飼い主が待ち遠しいのである。私のこいぬはなにしろ身体頑健、体力がありあまっており、非常に強く刺激を欲するタイプだ。散歩で好奇心を満たし、たっぷり運動させて、心身ともにくたくたにしてやりたい。
 こなつは私の家に来てから一貫してヒマそうでかわいそうなのである。しつけに悪くないと思われる範疇でこまめにかまい、可能なかぎりの刺激を与えているのだが、ぜんぜん足りなさそうなのだ。そして運動したりなさそうなのだ。「今日もまた圧倒的に刺激と運動が足らない」という顔をしている。希望を奪われた都市の若者の顔である。
 成犬はともかく、小さいうちは私が一緒に走ってもそれなりに満足させてやれると思う。こなつのもっとも早い走行には追いつけないだろうが、そもそもそんな速度で走っていい公園はない。私のこいぬはそりゃあもう速いのだ。

 睡眠はこいぬとしてはいまだ少ないような気がするが、朝からおめめぴかぴかで出迎えてくれるし、私がリビングにいてもよく寝ているから、まあいいかなと思う。昨夜は寝ながら口をもぐもぐ(カチカチ)していた。ごはんの夢か、おもちゃを噛んでいる夢を見ていたのだろう。こいぬの夢、こいぬの世界。

 こなつはおおよそ怖がるということがない。怖そうなようすを見せたのはスティック型掃除機を最初に見たときと顔まわりに強めのシャワーの湯を浴びたときくらいである。今となってはスティック型掃除機にも戦闘態勢である。いさましい。いさましいのはいいことだが、なにも怖がらないまま散歩デビューするのは私が怖い。
 四ヶ月くらいから警戒心が発達して怖がりやになると聞く。それを心配する飼い主も多いようだが、私は正直言って早く怖がり要素が加わってほしい。リードをつけても突拍子もないことをしかねないこいぬなのだ。広めの公園が自宅のすぐ隣にあってほんとうによかったと思う。しばらく公道を歩かせる気になれない。

 今は散歩デビューにそなえる時期である。まずは首輪に慣れてもらおうと思って買った。つけようとすると案の定こなつはとても喜んで首輪を追った。おもちゃだと思っているのだ。噛むのにちょうどいい太さだと私も思う(ちかごろはこなつにとっての噛みやすさがわかってきた)。
 最初につけようとしたときには苦闘の果てにあきらめた。ゆるめの大きさでつけて調整しようとして失敗したのだ。首輪を巻いた状態での調整なんかもうぜんぜん現実的ではないのである。おすわりも待てもろくにできない上、眠いときくらいしかおとなしくしていない。おまけに噛めそうなものはなんでも噛みたがる、すなわち首まわりに紐状の何かを巻いて繊細な動作をすることがとても難しい。ややゆるめくらいだと前肢をぱたぱた動かしながらいっしょうけんめい首を曲げて奥歯で金具の先をとらえてかじる。
 しかたがないので一度巻いてさっと取り、長さを調整してからえいやっとはめた。苦しくない程度にフィットしているとさほど気にならないようである。やれやれ。これでようすを見よう。

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