2021年5月16日

 5月10日、こなつが一歳の誕生日を迎えた。
 前日の9日が休日だったのでお祝いを前倒しした。お祝いといってもこなつ自身は誕生日のなんたるかを知らない(犬だから)。クリスマスと同じで、ただ珍しいおやつと新しいおもちゃがもらえる日である。
 犬を飼う前には「犬自身にわからないのに誕生日のお祝いもなにもないよなあ、お子さんがいるご家庭では楽しいかもしれませんが」と思っていた。しかしいざ犬と暮らしてみると、一歳になったことを自分が祝いたくなるのである。
 そんなわけでこなつはケーキを買ってもらった。馬肉でできたケーキである。舐めてみるとクリーム部分も味がない。ひとあし先に誕生日を迎えた竹馬の友の柴犬と同じものにした。探すのが面倒だったからである。竹馬の友の飼い主さんは「ぜんぶ食べたわよ」と言っていたが、こなつにはちょっと多すぎたようで、ラップにくるんで翌日のうちに食べきった。
 こなつが来てから毎日写真を撮っているけれど、お誕生日パーティではことのほかたくさん撮った。私の生涯でもっとも多く写真を撮った日かもわからない。ふだんはカメラを起動するのも面倒に感じるほどだから。

 なにしろ一歳までに犬の性格がある程度かたまってしまう。飼い主は犬の体質や気質を理解し、怖がりにならないように多様な体験をさせ、飼育環境に慣れさせ、家庭内のルールを教え、犬社会にも適応させなければならない。
 私はこなつがうちに来てから一歳になるまで、すごく楽しかったけれど、それはたまたまいろいろなことがうまくいったからだ。運が良かっただけである。
 それにもちろん、楽しい日々も楽しいばかりではない。叱っても通じなくてイライラすることもあるし、無限の体力にあきれることもある。体調を崩せば心配でたまらないし、謎の行動に頭を悩ませたりもする。でもそれも含めて、楽しかった。

 こなつはまだまだ子どもっぽくて、近所のよその犬はもう卒業したプロレスごっこもやるし、相変わらず体力や刺激への欲求もすごい。すごいが、そこには秩序が生じた。遊ぶときは遊ぶし、ぐずることもあるが、落ち着いて一緒に過ごすことができるようになった。
 こなつはソファの上で人間にもたれてくつろぎ、犬ベッドで丸まって眠り、それに飽きると自分でハウスからマットを出してその上に寝たり、自主的にハウスに入ったりする。年明けから少しずつそういう時間が増えて、今ではずいぶん長くなった。
 ルールもたくさん覚えた。つい最近できるようになったのは人間の食事があるときにダイニングテーブルをのぞかないというもの。以前からねだることはなかったが、気にして前肢をかけてのぞくので、ゆっくり食事をしたいときにはケージに入れたり別室に行かせたりしていた。そして別室で拗ねたこなつに新品のカーペットをかじられたりした。こなつが走り回っても滑らず足腰に良いものを新調したというのに。けっこう高かったのに。
 ドッグトレーナーTさんのアドバイスにより、コマンド「おりて」とセットで食卓ルールを教えた。こなつがテーブルに前肢をかける寸前で止め、やらなければめちゃめちゃほめた。それでわりとすっと覚えてくれて、今では人間がダイニングテーブルでおかずのにおいをぷんぷんさせていてもほぼのぼってこない(ときどきやりたそうにはする)。
 誕生日の翌週には人間三名が長時間リビングであれこれ食べながらくつろいでいる中で一緒にいることさえできた。人間の食べ物をねだらず、テーブルに鼻をつっこまない。したがって食べ物ありのホームパーティも可能、素晴らしいことである。ただし、ホームパーティをやると高確率でトイレを失敗しちゃうんですけどね。夜遅くまではしゃぐからだよな。

 こなつよ、と私は言う。こなつさんよ。あなたはもう子犬ではありません。犬です。
 犬よ犬よ。私のかわいい犬よ。あっというまに子どもでなくなった犬よ。もう一回赤ちゃんになってもいいんだよ。うんと長生きしたら、そういうこともあるかもしれないねえ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?