2021年8月10日
近ごろのこなつには「電池切れ」が観察される。
一歳になる前は豪華お散歩三時間コースでもやらなければ昼間のリビングで寝落ちすることがなかったのだけれど、近ごろは朝起きてはしゃいで私に遊んでもらって散歩に行って他の犬と遊んで帰ってまだおおはしゃぎして(帰宅後に氷やフードを食べて落ち着いたあと、なぜかふたたびテンションを上げ、リビングを犬走りしソファに飛び乗りおもちゃをぶん回してノンストップで遊ぶ)、それから同居人に撫でてもらうなどすると、すこんとおとなしくなってしまう。
先日など同居人が「こなつおはよう」と撫でてやろうとしたら、すっと横を過ぎて私が持っているおやつに注意を向け、「犬はそのブタミミをもらって寝ます」とばかりに自主的にハウスした。自分が元気なときは「かまって、かまって」とまとわりつくのに、現金な犬である。
夜も22時を回るとたいていおとなしい。犬ベッドかソファかソファの下に陣取って半分眠っている。晩には人間のあとをついてきて何をしているか眺めたり、風呂場に入って床の水を舐めたりと忙しいのだが、それもしない。横を人間が通ると首だけあげて「よう」みたいな顔をするか、眼球だけキロリと動かす。なんなら無の表情でぴくりとも動かないこともある。
このようにおとなしいときに歯磨きをすると歯ブラシを舐める舌の動きが鈍くなるのでやりやすい。歯磨きのごほうびに牛皮ガムや骨をやるのだが、あまりに眠いときにはその噛み方さえだるそうである。
少し前まではそんなことは考えられなかった。ハウスさせるまで常時「何か楽しいことないかな子犬ちゃん」(いつもなにかを期待している状態。命名・飼い主)だった。
多少なりとも大人になったということだろうか。暑いからかもわからない。
暑いのでこなつの首元を冷やすための保冷首輪を買ったのだが、三、四回しかつけることができなかった。最初は「なんだろ」という感じで、二度目は「それイヤだな」と意思表示し、三度目からはリードなしにはつけることができず、四度目にはリードとおやつを見せても近寄ってこなかった。「あれつけるんでしょ」と言わんばかりである。
つけたままでもいちおう散歩には行くものの、ちょくちょく「これイヤなんですけど」と意思表示する。帰宅して取ってやったらこれ見よがしにブルブルする。
これ以上無理につけると本格的に嫌がるだろうと思って早々にあきらめた。歯磨きも足拭きもそれなりにさせるし、慣れてたいしたストレスではないようなのに、からだに何か巻くのはほんとうにいやなようだ。ワイルドドッグである。
同じく暑いので氷をやっているのだけれど、こちらは大好きだ。好きすぎて器から咥えて出して前肢で蹴るので床が濡れてかなわない。「恐怖のアイスサッカー」と呼んでいる。
フィラリア等の予防のための薬(ネクスガードスペクトラ)の服用は先月から少々難儀するようになったが、薬を指で揉むようにしてボロボロにし、おやつに混ぜたらぺろっと食べた。おやつを細かく切るときに出るかけらを使うと良いようである。水分が足りなくて薬のかけらがおやつと分離して見えたので、こなつの好きな野菜のかけらも切って混ぜた。
そう、こなつは野菜が好きなのである。温野菜を料理するときにはこなつのために塩を入れない湯で下ゆでするか、先にこなつにやる分を切り離してレンジで加熱する。にんじんやレタスは生のままである。私はけちなので、犬のために野菜を用意するのではなく、にんじんのへたのまわりだとか、アスパラガスの根元の堅いところ(太ければ皮を剥くが、細いと剥けないので切り落とすしかない)、ブロッコリーの茎の皮の比較的柔らかいところなどをもったいぶってこなつにやっている。
鳴き声は相変わらず飼い主を困らせない。しかし変化もみられる。
朝にクンクン言うのは子犬のときからだが、おとなになったらバリエーションがでてきた。様子伺いの「クン」からはじまり、「まだかよ」みたいな鼻音の「ブー」、「おい」という感じの半無声音の「ウォッフ」、「起きてるんでしょ、わかってるんだから」という感じの「ミャン」(ほんとうに猫みたいな声を出すのだ)、などなど。
いずれも私に聞こえるぎりぎりの音声で、同室で寝ている人間さえ起きない。犬なりに調整しているようだ。おりこう。
玄関の扉が開く音には敏感になった。基本は「ウォッフ」、イレギュラーな時間に人が帰ってきたときなどは「ボッフ」、よほど怪しんでいるときや寝ぼけているときには「ワン」と一声なく。しかし連続してワンワンやることはない。これまた集合住宅に住んでいる人間としては助かる。
知人の犬はぜんぜん声を出さないのだそうで、それも助かるのだろうが、私はこなつの多様な感情表現に触れたいので、これくらいがベストである。でもそんなこと教えた覚えはないんだけどな。
こなつは子犬のときから預け保育を経験しており、今ではおなじみのトレーナーさんもいるので、他人でもだいじょうぶな犬になったはずである。そこでトレーナーさんがやっているペットホテルに三泊四日のお泊まりに出した。
このホテルサービスには一日二回の散歩および宿泊犬たちと遊ぶ時間があり、毎日ビデオや写真を送ってくれる。こなつはたいそう元気でとても楽しそうだった。
ところで私にはひとつの願望があった。Youtubeなどに、しばらく留守にしていてペットと再会した飼い主がペットに熱烈歓迎される映像がある。あれを体験したいという願望である。こなつは預かり保育を二回やって、二回ともちょっとしか歓迎してくれなかった。「おう、来たか」「へーい」みたいな感じだった。いやそれでもいいんですけど、飼い主がいないとキャンキャン鳴いてペットホテルに断られる犬になるよりはずっとよかったんだけど、それはそれとして熱烈歓迎も体験してみたかったのである。
それでこのたびのお迎えを楽しみにしていた。
こなつは私の前でびゃっびゃっと横っ飛びを繰り返し、しっぽをぶんぶん振ってワンと鳴き、私にからだをすり寄せまくった。念願の熱烈歓迎であった。飼い主の願望が満たされた。
私はほくほくしてこなつを連れて帰った。こなつはふだんならあちこちのにおいを嗅ぎたがったりそこいらの犬と遊びたがったりするのに、ほぼそれはせず早足でまっすぐ家に帰った。私が飼い主で私の家が自分の家だという自覚があるみたいだった。
私のカメラロールでその日付の写真を見ると、犬も人もえびす顔してくつろいでいる様子がうつっている。
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