2020年10月7日

 こなつが「おすわり」と「まて」を覚えた。
 「おすわり」はこなつがリビングで自由にしていてたまたま座った時に「おすわり」と言い、やたらと褒めていただけである。ちゃんと訓練した覚えはないし、おやつとかもやっていない。
 今日、フードの前に「おすわり」と言いながら腰に触れたら、さっと座った。「まて」はきわめて重要なので、来た日からフードのたびにやっているのだが、立ち上がって私の手に前足をかけてしっぽを振りまくるのがなおらなかった(かわいいが)。
 そんな状態が続いて二ヶ月、とうとう手で押えなくてもおすわりしてフードを待てるようになった。とはいえフードの皿を置いて三秒くらいで腰が浮くので、まだまだ毎日やらなくてはいけない。横断歩道での「まて」も発展途上だ。リビングでの名前での呼び戻しは少々できるようになっているから、次は「まて」のレベルアップ、そして「ふせ」である。
 こなつに現在入ったコマンドは以下のとおり。

 ・だめ → 普段は通る。興奮しているとまるで利かない。
 ・まて → 食前はほぼできる。こなつをリビングに置いて短時間次の間に行く時にドアに寄らないようにさせる時にもほぼできる(小声で褒めながら扉をそっと閉じている)。信号待ちなど、路上ではまだまだ。
 ・おすわり → 腰に触れるとできる。興奮しているとまるでできない。
 ・はなせ → できる。しかし、これは言語ではなく、口を開けさせる飼い主の指に抵抗しないことを覚えただけかもしれない。歯磨きがわりとできるのもそのせいか。
 ・おいで → 「おいで」ではできない。「こなつ」と呼ぶとアイコンタクトできて、興奮していなければこちらに来る。パピーパーティで会場スタッフに呼ばれてもそちらに行ったから、相手が私でなくてもある程度はできるようだ。
 ・とってこい → うちに来て早々の生後三ヶ月くらいから、一緒におもちゃで遊んでいたら自然にできるようになった。教えた覚えはないから、「持っていったらおもちゃを投げてもらえたり、ひっぱりっこをしてもらえる」と思っているのだろう。

 こなつは散歩の後の足拭きでは毎回ガウガウ状態で抵抗するが、大暴れはしない。普段は足を触っても抵抗しないのに、散歩のあとに限って嫌がるのだから、困ったものである。
 そうして彼女はもう掃除機を敵視しない。あんなに嫌いだったスティック型掃除機も、だるそうに横目で見ているだけだ。ロボット型については来て早々に慣れており、今では景色みたいに見過ごす。もしくはぐうぐう寝ている。
 人間の洗濯物干しや着替えは今でも好きだ。布がひらひらするのがなにしろ好きなのだ。近ごろは朝、こなつをリビングに放して身支度をし、次の間で朝食を作ったりコーヒーを入れたりしているのだけれど(そして思い出したようにトイレを失敗するこなつに翻弄されるのだけれど)、着替えの時だけは戦争である。
 順調に着替えてこなつをケージから出したままリードをつけて散歩に行けることは稀で、たいていはいったんハウスさせて着替える羽目に陥る。「私の服はおまえと引っ張りっこをするための布ではない」とわかってもらえるのはいつのことだろう。ああ、でも、つい先週まで、「おすわりなんかできるのはいつのことだろう」と思っていたのだ。

 散歩は初日から一貫してきわめて順調である。一日二回または一回(その場合は長い)、時間はできるだけランダムに、しかし仕事の都合もあるので朝と日暮れのあとが多く、1日合計4キロないし5キロを歩いている。立ち止まることも多く、毎日他犬や他人にかまってもらっているから、外にいる時間は合計2時間程度である。こなつはそれでもまだ遊ぶというので、部屋でも朝晩軽く引っ張りっこや「犬ごっこ」をしている。
 考えてみればこなつは1日合計3時間運動しているわけで、そりゃあマッチョにもなる。私が「もう遊ばないよ」と言って本を読んでいればその本を狙い、狭いリビングのコーナーぎりぎりを攻めて犬走りを披露する。私のこいぬはまったくもってアスリートである。

 そんなだからドッグランに申し込んだ。そして敗北した。
 保健所にこなつの鑑札をもらいにいったとき、区立のドッグランはこのところたいそうな人気と聞いていた。だから申込みの当日朝にかけたのだけれど、秒で(比喩でなく秒単位で)埋まっていた。次回の申し込みは二ヶ月後だ。大変な競争率である。時勢でペットショップやしつけ教室のドッグランが閉じ、閉じていないドッグランも定員を減らし、さらに私のように新しくペットを飼う人が増えた、そのためにドッグランは大人気と、そういうことだろう。
 かくなる上はこなつを電車に乗せて定員の多いドッグランに連れていくよりない。そして日々の散歩では大量の刺激と運動量を与えてやらなくてはいけない。いいだろう、やってやろうじゃないか。こなつが遊び疲れてフードを食べるなり寝ちゃうくらいの運動と刺激を与えるのが私の目標である。

 取り急ぎ朝晩の散歩の範囲を拡大した。こなつは散歩デビュー二週目にしてだいぶ慣れ、(当犬比で)さくさく歩くようになった。走るよと声をかけて促すと大喜びで私と一緒に走る。しかし隣の公園や街中では限度がある。
 私とこなつの自宅から徒歩十五分のところにたいそう大きい公園がある。しかしそこに行くには鉄道のターミナル駅を横切らなければならない。それなりの人混みと、鉄道マニアに人気の巨大陸橋を超える必要がある。こいぬは怖がるのではないだろうか。
 しかし私のこいぬは来たその日から退屈を訴えていた刺激ジャンキーである。散歩デビューしたその日から街路をてくてく歩き、隣の児童公園を満喫し、地下鉄の最寄り駅付近もあっけなくクリア、クレーン車が動いている工事現場など大のお気に入りである。
 やれる。このこいぬはやれる。そう思って誘導していったら、こなつは平気で陸橋の坂をのぼり(こなつは小さいから、階段はまだ上手に登れない)、鉄道マニアが好む絶景をおめめぴかぴかで眺め、耳をぴんぴんさせて音を聞いていた。早め通勤の人々がごったがえすいくつものホームをはるか下にのぞみ、私とこいぬはしばらくそこにいた。

 こなつが「帰る」というようなしぐさをするので帰った(私はいつにもまして早起きをしたけれど、仕事もあることだし)。陸橋を超えたらすぐに大きな都立公園に着く。こなつは少しも怖がらず、やや緊張しながらもひたすらに音とにおいを楽しんでいたから、そのうち定番の散歩コースになるだろう。

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