2021年3月28日

 こなつが六回セットのお教室を終えた。ドッグトレーナーTさんによるしつけ指導で、週に一度一時間、飼い主と犬で教わりに行き、教室に行かない日は飼い主がそれを地道に実行するというものである。仕事の都合でずらしたこともあるが、ほぼ週に一度のペースを崩さず、自主練にも励んだ。
 こなつはトレーニングがわりと好きなようである。楽しそうだ。なにしろ退屈が嫌いな犬だから、ゲーム感覚なのだろう。それから、飼い主がトレーナーTさんのまねをして以前よりは褒めポイントを押さえるようになったためかもわからない。
 Tさんによれば、犬は訓練すれば100語くらいは覚えるのだという。Tさんの犬は六頭いて(すごい。しかも全部保護犬だそうだ。本物である)、扉につけたロープをつかって冷蔵庫をあけ、ペットボトルや缶を正確に持ってくることさえするという。「犬は覚えるのが好き。コマンドを実行して褒められると嬉しい。トレーニングはゲーム」ということで、ほんとうにそのとおりなのだなと思う。

 おかげでこなつも一気に語彙(?)が増えた。
 お教室に行く前に覚えていたコマンドは「おいで」「まて」「おすわり」「ふせ」「ハウス」の五大コマンド、散歩のときに飼い主の左側をキープさせる「ひだり」、くわえているものを離させる「はなせ」だった。もちろん聞かないこともある。とくにいたずらをしている時には決してせず、とっつかまえる羽目になる。困ったものである。
 新しいコマンドは、ボールやロープで遊んでいるとき飼い主の手にそれを触れさせる「タッチ」、そばを歩く「ついて」、口にくわえて持ってきたものを飼い主の手の上で離す「ちょうだい」など。
 もちろん、どれもまだ完璧ではない。こなつにとって大切なものは、なかなか「ちょうだい」できないので、素敵なおやつと交換したりしている。Tさんによれば、今はまだそれでいいのだそうである。
 「ついて」は飼い主の運動神経の問題で難航している。フードをひとつぶずつあげて誘導し、飼い主にぴたりとついて歩かせるのだけれど、飼い主はどうしても正しい位置で誘導できない。そのために人間の前に犬が回り込んでしまう。
 飼い主がからだごと回らずに犬の方向を変えるための動作なども教わったのだが、とうとうできずにあきらめた。Tさんは「これができない人間がいることが理解できない」という顔をしていたが、「いえこれは……人間のことで……犬のことではないから……回れば済みます」とフォローしてくれた。もうしわけない。飼い主は動作を覚えるのが尋常でなく下手なのだ。

 こなつにとって嫌なことをがまんさせる・いいこととして覚えさせる方法も教わった。とにかくこちらが楽しげにしながらフードをひとつぶずつあげて「これはそんなにイヤじゃないな」と思わせるというのが基本的な手法である。
 おかげでスリッカーブラシを使って換毛期の毛を取ることができるようになった。まだまだフードひとつぶずつのごほうびは必要だが、軽く押さえているだけでブラシを使わせてくれる。そのときのこなつは「しょうがねえなあ」みたいな顔をしながらフードを食べている。まあそりゃそうだよな、犬としては換毛期の毛が飛び散ったってぜんぜんかまわないんだものな。
 こなつがTさんによくなつき、飼い主としてもTさんは信頼に足る人物と思えたので、お泊まりもさせてみた。飼い主の仕事の都合で遅くなる日に預けてみたのだ。送られてきたビデオでは楽しそうに他の犬を誘いまくり、乗ってくれる犬と遊んでいた。「こなつちゃんは遊ぶのがとても上手」とのことである。
 このあたりはもともとの気質と、近所の犬たちによくしてもらっていること、それに五ヶ月の段階で社会化お泊まり合宿をさせたのが効いているのだろう。犬づきあいができるかどうかは犬の一生にかかわることだから、ほんとうによかったと思う。
 飼い主の仕事が繁忙期に入ったので、あとは生活の中で強化・修正したいところを時々頼みつつ、繁忙期後に新しいことを覚えるために通うことにした。全六回セットは毎週でなくても、飛び飛びでもいいのだそうである。余裕ができたらスリングと歯ブラシによる歯磨きをやりたい。スリングで移動できれば地下鉄で気軽に出かけられるし、歯磨きは現在の歯磨きシートより歯ブラシのほうがずっと歯周病予防に効果がある。

 そのような楽しい日々の中、こなつはもう一度おなかをこわした。こなつ自身は初回よりは動揺していなかったが、そのぶん「とにかくハウスではぜったいにしないぞ」と決意してしまったようだ。
 その日のこなつは昼間からちょっとおなかがゆるかったのだけれど、飼い主に出かける予定があったので、同居人に病児保育(?)を依頼した。こなつはしばらく家の中でちょろちょろと排便したそうだ(おなかをこわすとトイレでできない)。それで、おなかが空っぽになったかなというところでケージに入れたら、こなつはなんと、ケージからお尻を出して噴射した。
 同居人は犬の名前は褒めるときに呼ぶことは承知していたが、そのときばかりは「こなつー!!」と叫んだという。申し訳ないんだけど、話を聞いたときには笑ってしまった。「犬はきれい好き」「ハウスは犬の大切な巣」という飼育本の解説があてはまることこのうえない。
 翌日にいつもの獣医師K先生にかかった。前回と同じく逆流性食道炎的なもので下痢をしているという診立てで胃薬をもらったら、すぐになおった。やれやれである。

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