2020年8月30日

 こなつが私の家に来て一ヶ月が経った。誕生日は5月10日だから、月齢は満三ヶ月と半月少々である。外見はだいぶ大人っぽくなった。成長中の動物に特有の、先に伸びたような四肢、丸まっている途中のような尾、角度によってだいぶ伸びたようにもまだまだ幼犬のようにも見えるマズル。
 この数日のこなつはわがままが少々落ち着いて、ひたすら甘えたいモードであるらしい。膝の上でごろごろ転がり、私の服に鼻先を突っ込んでふがふが盛り上がっている。赤ちゃんですねえと私は言う。こなつは赤ちゃん赤ちゃんですねえ。後ろ脚で座らせて前脚を腕でささえてやると人の子みたいな格好で落ち着き、ごきげんである。その格好で腹をとんとんする。腹の被毛はまだまだ薄く、その皮膚はいかにも薄くたよりない。

 暑いといえばまったくもってずっと暑く、日中の最高気温は三十五度程度なのだが、それでも「涼しくなった」と感じる。二台ある冷房もこなつがいるリビングの一台だけで事足りている。三十五度で秋の訪れとはぜったいにいえないが、こなつの被毛は早くも抜け始めた。換毛期だと思う。
 子犬の換毛期は季節によるものというより、生まれたときの毛が抜けて大人っぽい被毛が生えてくるものらしい。犬種にもよるのだろうけれど、四ヶ月前後に起きるという話で、こなつはちょっと早いかなというところだ。成長が順調でなによりである。膝など、もともと被毛が薄いところの皮膚が少し透けるほど抜けたので心配していたのだが、数日で生えてきた。えらく早い。
 まだ子犬なので、スリッカーブラシは早いように思う。というか、こなつはブラシが大好きで、自分のからだの上を這うブラシを追いかけてガリガリ噛むので、スリッカーはちょっと危ない気がするのである。ブラシを噛むときは本気で繰り返しやるので、巨大な歯ブラシをかけているみたいだ。歯茎にはいいのだろうが、ブラッシングには時間がかかる。一度などはブラシの先が歯茎に入ったのかキャンと悲鳴をあげ、「こいつが刃向かいました」みたいな顔をして私を見た。ブラシは悪くない。こなつが悪い。

 朝晩の運動をしっかりやっているせいか、昼間は落ち着いている。在宅仕事の邪魔をすることはあまりない。ときどき「ねえねえ」という程度に声を出す程度である。大きい声で吠えると叱られることは理解したようで、うにゃうにゃといろんな声を出す。ことにあざといのは私が来た気配で昼寝から起きてあくびをしながら「ああん」と鳴くようすである。かわいいと思ってやっているにちがいない。かわいいが。
 要求吠えとも違う発声が多いし、喉を使うウォッフという声から猫みたいな高い声までバリエーションがあるし、不機嫌でないようすのことも多いので、人間が話しているのを見て(私はこなつによく話しかける)自分にも話す機能がついていないか試しているのかもしれない。
 こなつは話せないんだよと私は言う。でもいいじゃないか。こなつはそんなにもすてきな三角お耳にまっくろお鼻、すてきな四つ足に肉球まで持っているのだから。

 こなつは隅っこが好きなので、持ち運び用のキャリーケースの上半分を取り外して舟形のベッドにしてみた。丸まりやすいのが気に入ったのか、よく中で寝ている。外でも寝ている。ふちをガリガリ噛んでもいる。かまいやしないよと私は言う。好きなだけ破壊しなさい、あなたはあと一ヶ月もしないうちにそれに入れて持ち運べる大きさじゃなくなるから。ベッドとしてなら生後半年くらいまで使えるかねえ。

 なんでも噛みたがるのは相変わらずだ。ふだんはダメとわかっている人間への甘噛みも遊びに夢中になるとばんばんやってしまう。一度落ち着かせないと「ダメ」も通らない。近ごろは私の手足にこなつの歯が当たった段階でこなつ用のタオルなどを彼女の口に入れている。現在のこなつの口は小さくとがった乳歯に強くなったあごの力が加わり、なかなかの破壊力を誇る。甘噛みでも噛まれたくないし、だいいち教育によくない。よき家庭犬の第一の要件は何があっても人を噛まないことである。こなつがタオルを噛むと私はよしよしと言う。よしよし、それを噛むのはいいぞ。好きなだけ噛みなさい。
 こなつの激しい噛み欲を満たすべく、綿のおもちゃのほかに木のおもちゃも与えてあって、これも気に入っているようだ。器用に前脚で挟んでかりかりやっている。しかし現在のこなつがもっとも愛するのはバスタオルである。どういうわけか高さ一センチ・幅四センチくらいの帯状に噛み切るのが好きで、ケージの中にいるときに同じかたちに噛み切っては私にくれる。内職でもしているみたいで可笑しい。ありがとうと私は言う。そしてそれをゴミ箱に捨てる。

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