2022年5月10日

 こなつが2歳になった。
 恒例となった犬缶(ふだんはやらないウェットフード。素材もふだんはやらない牛肉)を水切りヨーグルトでデコレーションした犬ケーキでお祝いする。プレゼントは新しい首輪とリード(犬的にはどうでもいいが、飼い主的にはこなつによく映える真っ赤なセットでとてもうれしい)、おやつセット(プレゼントと称したこの先数ヶ月分の散歩・しつけ用のおやつストック)、そして巨大ロープのおもちゃである。
 そのほか、こなつがよくプロレスしている犬であるところのフィロくん(トイプードルとビションフリーゼのミックス、こなつより数ヶ月年下)の飼い主さんから「フィロが激気に入っているものです」という触れ込みでいただいた知育おもちゃのボールもある。よそさまにまでお祝いしていただいてほんとうに恐縮である。柴犬仲間のコジローくん(最近こなつと軽くプロレスするようになった)の飼い主さんにもおやつを袋ごともらった。

 当日夜は家族とカメラを構えつつ授与式。こなつは犬ケーキに夢中でカメラの目線がぜんぶずれている。かわいい。犬ケーキにはフィラリアの薬を仕込んだのだがバクバク食べた。よしよし。冬まで毎月この薬を食わせるからな。
 こなつは誕生日近辺に血液検査と狂犬病の予防注射、それからフィラリアの薬をもらうために動物病院に行く。春は健康診断の季節で、犬友のうちシニア犬の飼い主さんたちは「(費用が)だいぶかかったわあ」と言うのだが、こなつは「まだ若いから500円の診察だけでいいですね」と獣医師に言われている。まあ非常に健康ですからね。アレルギーもないし。
 動物病院の診察台は犬が飛び降りられないくらいに高く、体重計を兼ねている。この春のこなつの体重は8.6キロ。100グラム増。増えましたと獣医師が言うので、太りましたかと私が言うと、かれはキッと私を見て、「こんなにいいからだをしているのに太ったということはありません。体格がより良くなったのです。筋肉と骨密度が増えたのでしょう。ねー、こなつちゃーん。そうだよねー。よしよしー。先生のこと好きー? はい、典型的なアスリートタイプですね。いっぱい運動させてあげて素晴らしいですね、そしたら好きなだけ食べさせてください、たぶん食べ過ぎないので。人間で言えば二十代はじめですから、まだまだ動きたいころですよ」と言った。犬と飼い主に交互に話しかけるので忙しそうである。
 こなつはたしかに食べ過ぎることがない。朝の公園でいっぱいおやつをもらった日はフードを残す。そうでなかったり運動量が多かったりするとぜんぶ食べる。野菜が大好きなことは以前にも書いたが、これもおそらくは身体が求めているから食べているのだろう。動物として優秀である。
 こなつは動物病院を好きである。変な犬だ。注射はそれなりに(しっぽが下がってちょっと震えるくらいには)怖がるのだが、待合室には動物がいっぱいいるし、ちょっと注射をがまんすればやさしい獣医師さんと動物看護師さんにちやほやしてもらえるし、終われば私にも激賞されておやつをもらえるしで、「お得」というところなのだろう。子犬のころからそうであって、散歩で近くを通ると「病院ですか? 犬と病院に行きますか?」と走り出し、今日は違うと道を曲がると「違う、こっち」と病院への道を示すのだ。変な犬である。

 まだ5月なのに雨が多い。
 こなつは一度雨を怖れるようになった、というか雨の中をしばらく歩いてアンダーコートまで水がしみることを避けるようすがあった。しかしその後、ふたたび雨を怖れない犬になった。そこそこの雨であっても歩きたがるし、遠くへも行きたがるのである。そして水に対してはアンビバレントな感情を持っている。水たまりに入るのはいやで飛び越すが、雨樋から落ちる水の観察はしたい。水に浮かぶ泡は取って食べたいが、水に足をどっぷりつけるのはいや。
 おそらく彼女にとって水はまだ不思議の多いものなのである。雨の日の散歩いで私が「帰ろうよ」と言うと、彼女はたいていむっとした顔で振り返り、「犬が水について学んでいるのに?」とでも言いたげなようすを見せる。私は人間だから、雨樋とその流れの前で十分立ち尽くしたら、もう歩きたいのだが。

 雨でない夜、私が仕事や食事の当番で散歩が遅れると、こなつは犬パーティに参加する。
 自宅の隣のそこそこ大きな公園には、9時半くらいからぼちぼち犬がやってくる。いるといえばずっと何らかの犬がいるのでは、というほどの散歩スポットだが、集会状態になるのは私が毎朝参加している朝7時半から9時過ぎの時間帯、そして週に一度ほど参加する夜の9時半から11時前の時間帯である。
 こなつ(というか飼い主)はたいてい早く入る。9時半、犬は二、三頭というところで、公園をぱらぱらと歩いている。こなつは彼らに軽くあいさつする。そして近くの別の公園に行く。近ごろのこなつは浅草寺(週に二回)と上野公園(週に一回)を末端とする上野ー浅草テリトリーを構築しようとしているふしがある。テリトリーでかくないか。朝メンバーの柴犬こてつ(五歳)は「ここまで」と決めている通りがあると言いますよ。「領土拡張の闇雲な野望は王国の滅亡をもたらす」と言わんばかりではないですか。あなた、こてつ先輩の教訓を聞いたほうがいいんじゃないですか。
 私はそのように思うのだが、こなつはおかまいなしである。数百メートル歩き、いくらかの犬に行き会う。そうしながらもおそらくは家の隣の公園に犬がいるかどうかは把握していて、「そろそろ行こう」と言うとさっと向かう。時は10時、着けば公園は果たしてピークである。犬パーティ状態。
 こなつは友だちの犬とはしゃぎまわり、小競り合いをし、一緒に走り(そして飼い主の足が遅いと言って怒り)、初対面の犬にあいさつし、久しぶりの犬にあいさつし、よその飼い主さんからおやつをもらい、なぜか自分以外の飼い主の差し出す水を飲んで(「よその水はうまい」現象)、自分の家のでないボールを堪能する(犬はだいたい自分の家のおもちゃに飽きている)。そしてその取り合いをしてまたはしゃぐ。
 まるっきりパリピの仕草ではないかと私は思う。
 早い時間帯からクラブに顔を出し、顔見知りに挨拶、バーへ。フロアを上がってちょっとチル。そしてまた挨拶、挨拶、挨拶。階下が盛り上がってきたのでおもむろに向かう。ダンス(追いかけっこ)、ダンス(おすもう)、ダンス(うなりながらの小競り合い)。みんなで乾杯(飼い主さんたちがくれるおやつ)。パーティは、しかし1時間で終わる。なにしろこなつは犬だから。胸を張って家に帰り、夜中の、あるいは夜明けのラーメンのように夜食フードをがつがつ食べて、最近お気に入りのお皿から水を飲み(ペットボトル給水器を嫌うのでこちらは手間である)、こなつは今夜もいい夢を見る。なかなか楽しそうな若者だ。

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