田舎論

 夏ですね。かの有名なポール・マッカートニーはこう言いました。「夏といえば田舎、田舎といえば夏」。
 田舎はなぜこうも我々を惹きつけるのか。それを探るべく、涼しい仏間でこれを書いています。

1.そもそも田舎をどう定義するか

1-1.まずは語義的に

(1)都会から離れた土地、地方。都以外の所。また、人家が少なく、へんぴな所。在郷。鄙(ひな)。
(2)地方にある生まれ故郷、または、親などの出身地。郷里。「連休にいなかへ帰る」
(3)(名詞の上に付けて接頭語のように用いる)田舎でよくありそうなさま、野卑、下品、粗暴などのさまにいう語。
日本国語大辞典(2022.6.25)

 略語や隠語を除くと、田舎は三種類に分けられます。辺鄙な場所としての田舎、故郷としての田舎、侮蔑としての田舎。

1-2.次に感覚的に

 この記事の大前提として「田舎は人を惹きつけてやまない」というものがあります。また、試しにGoogleの検索エンジンに「夏の田舎」と打ち込むと、検索結果や関連ワードに「ノスタルジック」という言葉が表示されます。
 つまり、「夏の田舎」=「郷愁を誘うもの」と解して問題ないでしょう。したがって、1-1で挙げた「(3)(名詞の上に付けて接頭語のように用いる)田舎でよくありそうなさま、野卑、下品、粗暴などのさまにいう語。」は本稿の田舎には含まれない要素ということになります。

1-3 田舎とは

 1-1で引用した⑴と⑵には、共通項があります。それは「地方」ということ。「都以外の所」とも言えます。
 ここでは大胆に「都(ある程度栄えている場所)以外の場所」を「地方」、すなわち「田舎」と定義します。⑵の「生まれ故郷」を含まないのは、都で生まれた人間にも田舎愛好者が存在するとの前提に基づきます。つまり、田舎への愛好は必ずしも「生まれ故郷(あるいはそれに似た場所)だから」という理由によらないということです。

2.田舎は何故我々を惹きつけるのか

2-1.ムズい

 これは非常に難しい問題です。というのも、人が何かを好む理由は千差万別だからです。一般に事象は複数の要素を持っており、例えばAという事象がa,b,cという要素を持っていた場合、その三つはすべて愛好の対象になり得ます。つまり「Aはaという要素故に好まれる」というような一元的な括り方ができないのです。

2-2.逃げの一手

 1-2で「「夏の田舎」=「郷愁を誘うもの」」と解しました。これを前提とすれば、A=夏の田舎の要素にはa=郷愁が含まれ、夏の田舎を郷愁から好む人間を対象に考えることができそうです。
 つまり要素b,c...は切り捨てず、aに絞って考える、ということです。

2-3.ここで誤りに気付く

 前項までの考え方を適用すると、人が郷愁を誘うものを好む理由を考えることになり、Aが夏の田舎から郷愁に切り替わるだけとなってしまいます。これでは無限ループ。
 ここで好きな理由を探るのは打ち止めにして、「郷愁を誘うものを人は好む」ものとして話を進めます。
「郷愁を誘うものを人は好む」…①
「夏の田舎は郷愁を誘う」…②
①,②より、
「夏の田舎を人は好む」…③
 という結論を目指します。①は前提とするので、②を頑張って導きましょう。

2-4.田舎は何故郷愁を誘うのか

 ここで日本国語大辞典に立ち返り、字義を見てみましょう。

(1)異郷にいて、故郷を懐かしく思う気持。懐郷の想い。ノスタルジア。
(2)昔のことを懐かしく思ったり、ひかれたりする気持。
日本国語大辞典(2022.6.25)

 田舎を好む人を①田舎出身の人、②都会出身の人と分けると、⑴の意味から①の人が田舎から郷愁を感じる理由は説明がつきます。
 では、②はどうなるのでしょう。

2-5.メタカントリー

 経験と知識は別物です。つまり、「田舎出身でなくとも田舎という知識は持てる」ことになります。ここで対象を選ばなければ、何かに懐かしさ=郷愁の⑵を抱くというのは誰にでも可能です。したがって、②の人が、あらかじめ持っていた「郷愁」を①の人の「田舎に対する郷愁」に重ね合わせることで、擬似的に「田舎に対する郷愁」を獲得したのではないでしょうか。

2-6.人口に膾炙する

 「夏の田舎」はある種のミームとして成立しています。毎年夏になると金曜ロードショーでサマーウォーズが流れ、他にも多数、夏の田舎を想起させる作品が作られています。2-5で述べた現象はあくまで理論上のもので、それを成立させる土壌がすでにあったと考えられます。

3.結局どういうこと?

 ここで、ざっくりとしたまとめを書いて終わりにしましょう。
 1では夏の田舎を「都以外の場所」と定義し、2で田舎は郷愁を誘うものであり、郷愁を誘うものを人は好む。だから人は夏の田舎が好き、ということ、また、それを成立させたであろう背景にも軽く触れました。
 ですが、このような論述(あるいは屁理屈)は本当に必要なのでしょうか? みんな夏が好き、それで良いではありませんか。
 今年も夏が来ました。マジで暑い。熱中症には気をつけましょう。

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