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伝達欲とさかな暮らし 24/02/13

なんかいい日だった。
一言で言うなら、なんかいい日だったに尽きる。
一言で言わないから、5000字くらい書いてある。

珍しく朝7時に起き、日記を書いて全く知らない人の日記を読み漁ったあと、13時になっていて焦るように掃除を始めた。

日記。
知らない人とはいえ、ネットで日記を書こうとする人の日記だ。おそらく気が合ってしまうからこそ面白くて時間が消える。
根っこの着眼点がぶっ飛んでいたり、文体は明るくてもオモコロ杯にわざわざ応募した形跡があったり。

何かはわからないけど、文から何かしらが滲んでいる。
そもそも素人の長文をわざわざ読解しようとして、自分でも書いちゃう人って時点で何かしらの波長は合うのだ。

掃除。
捨てるべきものを捨てて、物を定位置に戻して、少し掃除機をかけて終了。きれい好きが見ると汚い、大雑把な人が見ると綺麗な部屋になった。

オキニ・ぬい・ゾーン(お気に入りのぬいぐるみを飾る場所)ができたので割と満足した。


小躍りしシャワーを浴びたあとバス停に向かう。

20時に人に会う予定があった。
ネットで知り合った、35歳フリーランスかつコンサルタント的なパパさんだ。6歳になる娘さんがいて、たまに後ろ姿だけの写真がSNSに上がっていることがある。他人の子供、恐ろしく成長が早い。
仕事で福岡に寄る機会があるらしく、不意にサシ飲みに誘われて2週間前にそれに乗った。

人となりはそれなりに把握していたから、危なさは感じない。
家族には一応「友達とご飯を食べに行ってくる」と嘘とも言えない嘘をついて家を出た。というか家族も僕の他人を選ぶ性格を把握してるから、正直「ひとまわり上の人とのオフ会です」と言ってもそこまで心配しないとは思う。

知り合った経緯。
文章版Youtubeを謳ってサービスを開始したものの、軌道と理想が合わずサービスを終了したサイトがあった。

確か4年前くらいだった気がするが、そのよしみでまだ交友がある人も多い。ただそのコミュニティの人と会うのは初めてだ。
実アカウント名を書くのはなんとなく憚られるけど、このnoteアカウントを一番はじめにフォローしてくれた人でもある。

関係ないけど嬉しかったこと。
バスを待っていると、妹からイラストの活動頑張ってます!みたいな家族LINEが来たこと。とりあえず展示会にポストカードを飾れたらしい。
学業と両立しながらか、しばらく見ないうちに上手になったな、としみじみ。スタンプと短文を送って褒めてみた。
兄弟関係、これくらいの干渉がちょうどいいな。

もうひとつ、ちゃっかり抽選応募したライブのチケットに当選し入金できたこと。

19時には周辺に着き、ドトールコーヒーに場所を借りて1時間寒さをしのいだ。
250円のコーヒーで1時間ステイしただけだが、カフェの本当の使い方ってコレなのかもしれない。遠い席の他人、皆一様に席代払ってます顔で自分の時間を楽しんでいる。どうやらほとんどお一人様だ。

全員が全員そうだから「がめつさ」みたいなものも感じない。そもそも19時に20時閉店のカフェに居る時点で、やることは大体同じだ。
なんらかの理由で場所を借りたいだけ。

9割読み進めていた、星野源の「いのちの車窓から」を読み切った。厚みがペラペラでナメていたが、読もうとする機会がなく読み切れていなかったのだ。

「逃げ恥」出演当時の文章がしたためてあった。
恋の歌い出しが決まった時の文を読むとわかっていても肩が震えたし、新垣結衣の題で書かれた文ではちょっとだけ涙腺が反応した。エッセイ集のラストにかけては特別機敏だった。
でも、知ってる星野源だし、ここ知らないドトールコーヒーだしな……と思うと感情が薄れていった。

素晴らしいありのままの文なんだけど、この感情の揺れのことを知っている。この素晴らしさのこと、星野源が作る曲の中から既に受け取っている気がする。美味しい文章だけど、貰ったクッキーの2個目の包装を開けている気分。


水炊き専門店に来た。
生まれ育ちも博多っ子と言えども、インドア系かつ22歳無職。
水炊きは一度も食べたことがない。

家族と来る外食は基本チェーン店、わざわざ美味しい店に出向くような友達や連れて行ってくれる先輩はいない。
そもそも学生時代、12年間中の約半分は準引きこもりとして過ごしている。小4小5小6、中2中3、高2高3……半分越えてた。
味も場所も、どちらかと言えば今から覚えることがかなり多い。


相手の「予約してるから先に待ってて!」と書かれたメッセージの通り店内に入り、予約名を伝えて席に着く。

5分もせずにその人も入ってきて、軽く挨拶を交わす。
とはいえ顔も声も知っていた。こちらの顔はさておいて。
オフ会のたびに声と人となりだけは知っている状態なことに驚く。普段はあまり得られない感覚で、新鮮に感じられる。

会ってすぐは緊張していたが、「おまた~♡」と登場した時点で少し安心していた。この人の言動の軽さは知っているから、だいたい品性が合う人であることはわかっている。
対面で話を合わせる時、詳細な価値観よりも品性が合うかどうかが重要かも!なんてたまに思う。

「仕事のできる人間エンジョイ勢」みたいな感じで、上品さは一切ない。
よくいる気さくな若めのパパだ。誇らしげなほどの開き直りを感じるが、瞳の奥に物凄い野性と知性を感じるような。

「思ってたより若い!」とすぐに失礼なことを言ってみると、「まだまだおこちゃまですよ」とはっちゃける。
「誘ってくれたのびっくりしましたよ」と言うと「なんか俺距離感バグってんだよね」と言っていた。
あまりの気の使わなさに「友達とご飯行ってくる」で全然嘘じゃなかったわ、なんて思い返した。

「自分が気を使わず話せる時は、相手が気を(無意識でも)使っている」みたいな言説があるが、実際そうかもしれない。
その人はコミュニケーション指導のコンサルタント経験者、芸術学の博士号持ちらしい。僕はそのぶん特に考えず、フラっと誘いに乗っていた。

そのうち瓶ビールをグラスに注がれ、その人は手酌で注いだ。こちらが瓶を持つことはほとんどなかったし、注がせようともしてこない。

お酒は僕と同じくらい弱いらしい。コースだから特別注文を考える必要もなかった。13歳上なのに、ありえないくらい気持ちがラクだ。

前職飲食業の話を聞かれ同情されたり、こちら側から大学院がなにする場所なのかについて聞いたり、コンサルってなにするんですかって聞いたり。
「他人の子供って成長早いっすよね」と言うと「俺も子供居るの初めてだから俺も早いよね!?と思ってる」と返された。気さくな楽しい人だ。

特段気持ちを掌握されてる感じもなく、だいぶ安心した。というかこの手の人って、掌握してる感じが少しでもあってはいけないんだろう。

今は就職支援関係のサポートをしているらしい。
「就労支援は頼ってしゃぶりつくした方がいい」とも聞いた。イヤイヤ、しゃぶりつくした方がいいってアンタ。
……その通りだ。かなり興味津々のまま聞いた。これをメインに伝えようとしていた可能性もゼロじゃない。

「同級生だけは話合わないみたいな人、そこそこ居るよ」って聞いて安心した。
同窓会のことを話して「そうなんすよ!!!1個上か1個下はそこそこ話し合うんすけど同級生になるとバトルみたいになっててしょうもなくて!」と、日記を書く時よりも赤裸々な本音が口に出ていた。若干お酒も入っている。

「最初から上下が決まってる方が楽なんだよね、同年代ってマウントっていうか腹の探り合いがあるからさ」と共感の鬼みたいな返しをしてくる。

あと、打ち解けた人と喋ってる時しか即答しない言葉ってあるんだな。
「結婚願望とかあんの?」と聞かれて「ないです!今は!そのうち出てもおかしくないけど!」と返して、自分の中にすぐ言える立派な考えがあることに驚いた。

流れで「つい最近、3か月くらい前に自我が芽生えた感じなので」なんて笑いながら話した。
自分から見た自分って、もっとモニョニョしているイメージがある。

この人の「外出中に介抱されるほど泥酔する人ってホントにしょうもないから」「飲む前にわかってるわけじゃん、それで浮気なんて完全に甘えじゃん」みたいな語りの語気の強さ、思想の芯の堅牢さもよかった。

「そうそうそう!!」と何度口に出しただろうか。
正直なところ0割0分2厘くらい怪しい商談を聞く可能性を捨ててなかったけど、そうでもなかったみたいだ。水炊き美味しい。

ちょうどいいくらいに酔って店を出た。
くだらない下ネタを言われてラリーを続け、スパっとホテルの方に退場していった。グッと信頼が増した。

「いやぁムチムチのコラーゲンだった、明日には肌とぅるとぅる、今×××したらきっと×××が×××だわ!」って絶妙なくだらなさに、今日イチで吹き出してしまった。言うなそんなん。

「品性の距離感が同じかどうかってありますよね!!」なんて話をして、軽く同意された。その流れで共通の知人の話にもなった。
「たとえば○○さんとか!」と話を振ったのはこっちだけど。

「あの人ね、会ったけどかなり明るいよ」と聞いて「ネットの知り合いの現実の立ち振る舞い、全然想像したことないです」なんて返した。

そのまま「僕は明るいですか!?」「若造なんでね、他人の評価がまだまだ気になっちゃってヘヘ」と酔っているさまのまま話すと「若いねぇ」「いやもうめっちゃ明るいでしょ」と返された。
めっちゃ明るいらしい。

確かに会ってしばらくゲラッゲラだったし、要らんことも言ってた。
あまりにも知ってる人の距離感だったから、会計の時には「財布出すフリとかせんでいいすか」と茶化し「これで怒る人じゃなかったのが嬉しいです」と二重で失礼なセリフを言った。
確かにこれで「明るくも暗くもない」と評価するのは無理がある。

半強制的に下手に出ていい年上との会話がかなり楽しかった。
敬語をつけるのが当然だから、地に足がついている気がする。
なんかずっと「ありがて~」と思いつつ解散した。


帰りのバスで「物好きだから日記読んじゃったよ~~!」と、昨日の日記に書いた人から急にLINEがあった。
曰く、嫌われていないことに安心したらしい。確かにそういえば「嫌われ」を過度に不安に思う人だった。

「( )くんのこと『わ~~~~~』ってしたいわけじゃないけど、仲良くなりたいです!」と、よく読んでくれた人の、自分の言葉でリアクションしている。
「わ~~~~~」ってなんでしたっけ。
自分で書いといて文脈を忘れていて、日記を読み返した。

訳すと「接して漠然と不安にさせたいわけじゃないけど、人として興味があります!」ってところだろうか。違うか。そのままの方がいいわな、わざわざ内容に沿いつつ自分の言葉にしてくれたのに。

そういやこの人にも「精神的に自立してる人に見えるから、同じようなことで苦しいって思うんだって親近感が湧いた」って書かれていた。いやでもそういうとこっすよね、この人が他人に好かれる理由。


そうか。外から見たら精神だけは自立してるし、めっちゃ明るいし、友達多いのかもね。ありがたいことだ。

「噛み砕く」みたいな行為の違和感を考えつつ、たまたまこの記事に辿りついた。

オモチャン永田クイズ」を見ながら「桃色核実験」で検索して、上から四番目がこれだった。

「難しいもの」は簡単に言えないから難しいわけで。
(中略) 「5分でわかるニーチェ」みたいなのあるけど、あんなのニーチェからしたらガチギレじゃないですか(笑)
(中略) 取材のときって「要するに」ってのがけっこうNGワードで、向こうが言おうとしていることをこっちの浅い知識で要約しちゃいけない。

ねとらぼの中の人インタビュー 第2回 杉本吏

「本を10分に要約するサブスク」の宣伝文句を見て、「意味なくネ?使わないからわからんけどネ?」とつい最近思っていたからか、かなり痺れた。

ネットの炎上についても、文脈が欠けすぎててくだらないで~す!ドキンちゃんもいま~す!と思う。

その人の言葉を変えて飛ばしていては、解釈が一致しない。
とはいえこの引用もかなり中略したけれど。

昨日の日記を書く時に「バイツァダスト(負けて死ね)」は意訳だ、ってことも知った。キャッチーで好きだけど、直訳の文も知れてよかった。

長文をわざわざ読解する人じゃないと読めない文を書こう、なんてパッと見で重たい日記を書くこともある。昨日も今日も割とそうだ。


要約や意訳のキャッチーさと危うさ。短文を好む人と長文を汲み取ろうとする人の気質の違い。最近ちょうど考えたとこだった。

対面だと話せないことがテキストで間接的になら示せたり、逆にテキストで伝わらない熱量が対面で溢れたりした。
それぞれ一つずつ、しかもかなり嬉しい形で体験した。

伝達欲みたいなものがどこかにある。

星野源も「いのちの車窓から」のあとがきにこの単語を書いていたほど、伝達欲は文を書く原動力になるものだ。文を書いてどうなるというより、このために文を書く。伝わんね~な~と毎日思うからこそ、狂ったように趣味として文を書いているのかも。

星野源は「10年ほどエッセイを書き続けて気づいたことですが、文章のプロとは、ありのままを書くことができる人ではないかと思います。」とも書いている。
星野源の文章を特別上手だ!とは決して思わなかっただけに、ありのまま見えた世界を書いている文は素敵に思えたし、説得力があった。

僕も他人の日記を見ていて、プロ云々を置いておいても深くそう思う。
裸の心の底から書いた文章は、何かしらどこかの誰かに響く気がしている。

それと「元々はメール(文章)を上手く書けるようになるために、人に頼み込んでエッセイを書き始めた」とも記している。
伝わんないから、伝えたい。
伝えたくてただ仕方ない、それだけだ。

生きる気力が、自分にしては珍しいくらい湧いている。いや、ずっと湧いてはいるけども。

魚みたいにユラユラ暮らすんだ。
水を得た魚みたいに、いつかどこかでなれるだろうか。

こなまるでした。

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