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絵を描き始めた日
絵を描き始めた日を今でも思い出せる。
部屋の片隅でスマホにアプリを入れ、その光る画面の中に黙々と絵を描いていった。
わたしはすっかり大人になっていたのに、そこに描かれていたのは拙い子どもの落書きのような絵だった。
でも驚きはしなかった。
元々わたしは絵を描くのが嫌いだったから。
あの当時から何も変わっていないなと冷静に思った。
それでも描き始めてからは毎日続けた。
そこにはわたしなりの目的があったから。
“自分の心の中にある理想の絵を描きたい。”
イラストを見ることは好きだったわたしには憧れのイラストレーターさんたちがいた。立場は違えど、その方たちと今同じ方向を向いていることがただただ嬉しかった。
毎日毎日不揃いな絵が出来上がっていく。
それをじっと眺めては修正を重ねた。
「違う、わたしの中にある理想はこうじゃない」と。
それを繰り返していくうち、絵を描くことの楽しさを覚えた。これまで誰にも、自分にさえうまく言葉にできなかったものが絵でなら表現できることをわたしは知ったのだ。
それはわたしが学生時に夢中になった、日記を付ける行為と似ていた。心の中にあるふわりと漂う感情を、書き出すという手法でなら掬い取れる気がしたからだ。
日記を書く時と同じように、絵を描くことでも自分と深く会話できる。それはわたしにとって驚きであり、喜びであった。
だから毎日描き続けられた。
そして今がある。
イラストも柴犬も物作りも大好きだ。
でも1番好きなのは自分の中にある理想を形作ることなのかもしれない。
そんなことをふと思った。
湖中
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