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航空機の非常事態に備えるATC:ヘッドオンで迫って来たーっ!!

今世紀に入って人工衛星を介したRNAV航法が発達して、NDBやVORで規定された航路をそのまま飛ぶ機会はずいぶんと減少しました。それでも大都市圏周辺や周囲を山で囲まれた空港周辺では、航空機同士の異常接近が度々発生しています。

"Yamagata radio, Airways 2336, we're ready for departure."
"Airways 2336, Yamagata radio, after airborne turn left climb 9,000. Wind's 330 at 9, Runway 01 is clear."
"Climb 9,000, Runway 01 is clear, Airways 2336."

空港周辺を飛行する航空機は、その管制空域へ入る予定がなくても、離着陸機がある際、自機の位置と高度を知らせておくのは親切です。
"Yamagata radio, JA223P departed KAMINOYAMA, 8,500ft heading north."
"JA223P, Yamagata radio, Yamagata QNH 2996, we've one departure traffic."
"JA223P, 2996 roger."  

巡航機と出発機の航路が接近する可能性があると感じたら、巡航機は引き続き位置と高度を知らせるのが安全です。地上からは飛行ルートを大抵訊かれますから、その心づもりでいましょう。相手機を目視しているか?いないかは、問われなくても伝えておきます。
"JA223P is now two miles south of ATERA, 8,500ft."
"JA223P, Yamagata radio, report your route of flight."
"JA223P, after ATERA maintain this heading and altitude, our destination's Odate Airport. We've the departing traffic in sight."
"JA223P, Yamagata radio, roger."

日本では定期便の離発着があると、それらの運航が優先されるので、管制の指示に従うのが暗黙のルールです。Radioの管轄で、その空域外を飛んでいても指示されます。通信官は管制指示出来ない筈などと云わず、長い物には巻かれましょう。但し、燃料が逼迫している時、雲に入りそうな時、山肌に接近しそうな指示などは、そのまま遵守すると危険なので、理由を述べてハッキリ断りましょう。
"JA223P, Yamagata radio, if possible temporarily fly direct to Yamagata VOR. Embraer 190 is turning left to climb 9,000."
"JA223P, fly direct YTE, 8,500ft."

ところが稀ながら、予想外の事態に展開することがあります。一旦従っても、危険が差し迫っていると感じたら、直ぐにアクションを取ります。
"JA223P, we see the climbing traffic 12 o'clock, looks dangerous to maintain this heading! We need heading to SAGAE, now we're on a collision course!!"
"JA2336, Yamagata radio, unable heading SAGAE, due to the departure traffic. Are you still the traffic in sight?"

緊急事態が迫ってくると、管制も慌ててコールサインを間違えることがあります。似たような数字であったり、国内ではJuliet-Alfa (JA)を"Japan Air"と混同されることもあります。誰が誰に呼び掛けているのか、注意して聞き分けねばなりません。もしも誰も反応しない場合は、一息おいてから確認の送信を入れます。ワンテンポ置くのは、Double transmissionになって、益々混乱するからです。
"This is Juliet Alfa 223 Papa, are you calling us?"
"Affirm…, JA223P, the departure traffic is climbing the west side of the control zone. Which directrion can you see the traffic?"
"JA223P, it’s 12 o’clock! We observed they did turn to the right, and now climbing direct to us. They're heading on, but still a couple of thousand beneath us. We've enough separation."

管制側も事情が分かると、接近回避のため協力的に動いてくれます。この場合、SIDの手順を間違えた出発機から状況報告があって然るべきですが、旋回方向をすっかり失念していることもあり得ます。
"JA223P, Yamagata radio, we understand the situation, Please keep separation from the traffic."
"JA223P, we resume the heading north for separation."

ジェット機にはTCAS(空中衝突防止装置)が装備されていて、異常接近状態となると回避指示(RA)が表示されます。乗務員はRAの回避指示に従うべきです。
"Airwalk 2336, now RA activated!"
"Yamagata radio, understand, did you find the crusing traffic in sight?"
"Negative, Airwalk 2336."
"JA233P, do you maintain the visual contact wuth the traffic?"
"JA223P, affirmative. we see the climbing traffic, 2 o'clock, two to three miles east. They're above us now."
"Yamagata radio, roger. The traffic is no factor, thank you."

日本の国土は狭いうえに山がちなので、TCASを装備した航空機でも異常接近の危険性があちこちに潜んでいます。実際に日航機同士が衝突事故寸前まで接近した事例が、静岡県清水市沖で発生しました。ジェット機と小型機の異常接近は、上述のような盆地にある空港周辺のほか、大都市近郊では羽田空港ILS Rwy22運用時の千葉県北西部空域、伊丹空港ILS Rwy32L運用時の奈良県北部空域、板付空港ILS Rwy34運用時の福岡県南西部空域などで注意が必要です。

出発機や到着機があって、自機がそれらと接近する可能性がある場合、それがTCA空域なら地上に管制権がありますので、当然それに従います。しかし、その指示が衝突の危険を増すと思われる際には、ハッキリ理由を伝えてNegativeと伝えましょう。特に危険が差し迫っている場合は、aviation firstで直ぐに回避すべきです。

Radio空域では管制権は設定されていませんから、通信官からの指示は法的な権限を持ちません。お願いベースの指示は責任の所在が不明なので、この日本の曖昧なルールは実に危険です。Radio空港の管制卓脇にはレーダー画面があるようですが、リモート運用している場合も多く、原則管制用ではないため、STARやSID経路からの逸脱を確認しているとは限りません。

空中衝突では両方とも生存する可能性はなく、人口密集地で発生したら地上にも甚大な被害を及ぼしますから、絶対に避けねばなりません。
ですから機長は常に自己の責任を意識し、自分本位や他人任せではなく、相互に安全となる公正な判断を下す必要があります。


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