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夢夢 第2話

夢夢 2話

『じゃあ、私一旦帰って荷物とかまとめてきますね。』


「了解です。」

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時間は刻々と迫っていた。なんの時間かと言うと彼女が家にやって来る時間である。

これから始まるのは人生初、女性との同棲生活である。緊張の度合いが違う。


幸い、この時代のおかげか、過去の男子諸君の屍の上に立っている俺は、男子の劣情を抱え込んだ雑誌や漫画を所持していない。すべてインターネットの海に眠らせてきた。

これで彼女からベットの下を探られ軽蔑の眼差しを向けられることは無いだろう。

そうこうしてると、緊張で荒い息ずかいの音が響く部屋にインターフォンの音が鳴り響いた。

「はーい、今開けまーす。」


『お、お邪魔します...』


「うす、適当に靴は置いといてください。」


『あ、はい...』


ついに彼女が家に足を踏み入れた。

彼女の第一声は一体なんなのであろうか、消臭スプレー、ゴミ捨て、窓拭きなどなど人生で行うであろう掃除の半分の割合は捧げたであろうこの1日!是非ともお褒めの言葉を頂きたいものである!

『わぁ、○○くん部屋綺麗ですね!』

「まぁ掃除しましたから笑」


この子まじ神...!


『ていうか、家大きいですね...』


「えっと...事故の賠償金があって、それで親に頼んで一人暮らししてるんですよね。大学生から」

『なるほど...』

まぁ記憶を無くしていた分、親も知らない人になるわけでそういう人たちと暮らすのは割とストレスではあった。

だから俺は自立するという意味も込めて、事故の賠償金を使い大学生から一人暮らしを始めた。

「答えにくかったら、良いんですけど...遠藤さんも事故...あったじゃないですか?」

『はい...』

「賠償金とかって...」

『お母さんが死んじゃう前に自分の弟、えっと私の...叔父?にお金預けてたんですけど、叔父さんが全部もってちゃったみたいで...笑』



「そんなこと...酷すぎませんか...」



『しょうがないです...私が眠ってる間も叔父がずっと母の面倒みてたので...』

とんでもないゲスな叔父である。他人事ながらふつふつとはらわたが煮えたぎってくる。



『あ!○○さんって大学生ですか?』

「そうっすよ」

『何学部なんですか?覚えてないかもだけど外科医になりたい!って昔から言ってたし、医学部?』

「いや、医学部になりたかったことは覚えてますよ...でももう諦めました...笑」

「事故で右腕に軽く障害が残っちゃって...」

「だから今は、適当に選んだ学部...一応経済学部ですね...」


『そっか...』


「遠藤さんは大学は?」


『行ってないですよ、お金無くて...えへへ』


「あぁ...そうですか...」


重い!空気が重すぎる...何か打開の一手を打たなければ...


『でも私たちどっちも中三で事故に遭うなんて珍しいですよね笑』

『2人とも同じ事故だったりして笑』

「あはは...」


それは...笑いづらいって...遠藤さん...


「あ、そうだ!遠藤さん、もうすぐ夜ご飯の時間ですし、何か食べたいものありますか?買ってきますけど」

我がながら素晴らしい話題転換である。

『あー、確かに...お腹すいたかも...』



『うーん...でも買ってきてもらうのも申し訳ないですし...』



『あ!私も一緒に行きますよ!』

「え..まじすか?」


『嫌...ですか?』

「あ、いやそういう訳じゃないんですけど」

「じゃあ行きますか、一緒に」

「ちょっと準備するんで待っててくださいね」

俺は、一人暮らしする時に母に貰った銀のネックレスをぶら下げ、遠藤さんとスーパーに出かけた。

先程は取り乱してしまった、苦節21年俺はついに女子と買い物に出かけます...泣 まぁ記憶は半分くらいないけど...

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スーパー

「遠藤さんって、好きな食べ物とかあるんですか?作れるものだったら作りますけど...」

『うーん、お蕎麦とか?』

「あー、いいですねお蕎麦、それにしましょ」

『大変じゃないですか...?』

「まぁ..料理多少はできるんで大丈夫ですよ笑」

『良かった笑』



『あっ!!』

急に何かを見つけた素振りを見せた遠藤さんは、じーっとスイーツコーナーを見つめていた。

『食べたい...でもなぁ...お金無いしなぁ...でも食べたいなぁ...』

『むぅぅ...』


「買いますか笑、みたらし団子」

『えっ!...でも、私デザート食べれるほどお金ないですよ?...』

「お金のことはもう気にしなくていいですよ..笑 僕ができる限り面倒見るんで...」

『うぅ...ありがとうございます...』

なんで出会ったばかりの人にこんなことが出来るのか自分でもよく分からなかったが、まぁ遠藤さんのこの涙目混じりの笑顔を見るということを理由にしておこう。

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『わぁ...おいしそぉ』

まったく、ふやけた顔も可愛いものである。

「伸びないうちに食べちゃってくださいね笑」

『はい!...あっ!』

「ん?」

『写真...撮ってもいいですか?』

「写真...?」

『このデジカメ、お母さんが私に残してくれたもので...思い出は撮って起きたいんですよね』

「あぁ...全然いいですよ笑」

『見てください笑 ○○さんの料理撮ってる写真も撮っちゃいました笑』

「なんか照れる...」

『えへへ...いい写真です。』

『あ、じゃあいただきます!』

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それから、数時間後 睡眠時間を迎えた俺たち
は、同棲初日にありがちなどっちがどこで寝るか問題を俺がベッド型になるソファーを持っていたことで難なく解決し、遠藤さんがソファー、俺が自分のベッドで寝ることとなったのであった。

『今日は色々ありがとうございます...』

「ううん、俺も楽しかったですから」

『あ...私夢遊病酷いって話したじゃないですか?』

「はい...」

『もし、私が夜中に何かしようとしてるのに気づいたら起こして貰えますか?』

「あー...いいですよ笑」

『何から何まですいません...』

『じゃあおやすみなさ...あっ』

「?」

『もう一個だけお願いいいですか?』

「はい」

『敬語じゃなくてタメ語で話して欲しいです...じゃなくて!...タメ語で話して欲しいな!』

『えっと...えっと...中学の時からずっとタメ語だったから、いまさら敬語とかしっくり来なくて...笑』

『ダメ...かな?』

暗闇の中でも、彼女が涙目でそれを伝えていることを察した俺に、その願いを断ることは出来なかった。

「全然いいよ」

「おやすみ、遠藤さん」

『やった...!』

『あ、おやすみ!○○くん!』

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その日の深夜、俺は彼女がベッドを立ち上がる音で目を覚ました。

「ん...?遠藤さん...?」

なんだ...?俺のそばに近づいて来て...ん?俺の手を握った...!?なんかボソボソ言ってるし...これ夢遊病...?

「遠藤さん...!おーい!」

『はっ!』

『ご、ごめん!!』

「今の、やっぱり夢遊病ってやつ?」

『多分...私何してたかな?』

「俺の手を握ってなんかブツブツ言ってたけど」

『ごめん...起こしちゃったよね...』

「まぁ、部屋出てってまた一日中歩くとかじゃなくて良かったよ笑笑」

『もぅ...笑』

「今度こそ、おやすみ...」

『うん...おやすみ○○...』

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