夢夢 最終話
○○〜起きてる〜??
「うん、起きてるよ」
齢20歳になった俺、もう母親からの怒声が目覚ましなんてことはさすがに無くなった。
「時間は…大丈夫か…」
今日は、彼女のお見舞いに行く日
そう俺を事故から救ってくれた、さくらのお見舞いだ。
彼女は、命に別状はなかったが、どうやら意識が戻る気配がないらしい。
あの日、彼女は迫り来る車から俺を突き飛ばした。
まるで事故にこれから合うのが分かってるみたいな顔で俺を突き飛ばした彼女は俺にこういったんだ…ありがとうって
その意味がなんなのか、俺には検討もつかなかった。ただ彼女の人生を俺が止めてしまった。その事実と彼女を失った悲しみだけが俺に重くのしかかった。
ただ、彼女の夢 「大切な人を守ること」それがきっと彼女の母親のことだと思った俺は、彼女の叔父に頭を下げ、彼女の母親の世話を微力ながら手伝うこととなった。
「よし…行くか」
俺は銀色のネックレスと彼女から預かりっぱなしのデジタルカメラを手に、病室に眠る彼女のもとへ向かった。
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「また、咲いたのか」
彼女の病室は2階、窓の外からはちょうど綺麗な桜が拝める。
「さくら、俺、大学2年生になったよ」
「医学部も順調でさ…」
これ以上は言葉が出なかった、俺が彼女の人生を奪っておいて自分の人生を語るなんて…
ここに来るといつもそうだ…言葉が出なくなる。
「あれから5年か…」
「さくら…このカメラ大事にしてたよな」
俺はこのカメラの電源をつけたことがなかった。彼女の今までの思い出なんて見たら、楽しげに映る彼女なんてみたら、俺は耐えられる気がしない。
けど今日だけは、ノスタルジックな気分だったのだろうか、それとも眠っているはずのさくらに背中押されたのだろうか…自分にけじめをつけたかった。
「電源ボタンは…」
カチッ
カメラを起動すると、俺はさくらを画角に入れて1枚の写真を撮った。
「寝てる女の子の写真撮るなんて趣味悪いな…俺」
撮った写真を見ようとすると、誤って前の写真を開いてしまった。
そこに写っていたのは事故の日に俺が撮った写真…ではなかった。
「あれ…?何だこの写真…」
さくらがブランコに乗ってる写真…
しかもこのさくらどこか大人っぽい?
「えっと…次は…」
「ボウリング…してる男の人…?」
いや…待てよこの男の人どこかで…
「こ、これ俺じゃん…!!」
「は?…どういう…」
次の写真も料理をする俺だったり、俺の寝顔だったり…
しかも全部、今の俺と同じ顔をした写真である。
「いや…でもこのカメラ中学の時以来使ってないはずだし…」
「さくら…どういう…」
写真を一通り見てみたが、彼女が写っている写真は今日撮った写真、事故の日の写真、彼女がブランコを漕いでいる写真だけだった。
「このブランコの写真、俺が撮った気がする…」
「あれ…なんでだろ…涙が…」
どんどんとわき上がる彼女との思い出
「2人で暮らしてたのか…そうだ…そうだよ…」
「あ…さくら…さくら…」
「あれは、夢じゃなかったんだ…2人で夢を誓い合ったあの子は…そっか…さくらだったんだ。」
変な気分だった。2つの人生が混ざり合う感じ…ただ、そんなことよりも俺はまだ彼女に伝えていなかった。
「さくら…俺さくらのこと好きだ…」
「さくら…起きてよ…2人で夢叶えよう…」
静まり返った病室で…聞けるはずのないと思っていた声がした。
『もう…叶ったよ笑 ○○…私も○○のこと』
『大好き』
彼女が夢から覚め、夢を叶えた日
俺が夢にまでみたこの日
テレビのキャスターはこう告げた。
今日は、東京の桜の満開日
桜がもっとも綺麗に見れる日であると
end
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