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『夢夢』第3話

夢夢  3話

「遠藤さん起きてー!」

『うーん...あとちょっとぉ...』

不思議なものである。1ヶ月ほど前、つまり彼女と同棲を始める前にはけたたましく鳴り響く目覚ましに1度の朝で3回は叩き起されていた俺がまさか誰かの目覚ましになる日が来るとは...

遠藤さんはものすごく寝起きが悪かった...

「遠藤さん今日パートの仕事あるって言ってたでしょ」

『うぅん、そうだったぁ』

「ご飯作ってあるから食べちゃって」

『ありがとぅ』

こうして、また同棲生活1ヶ月目、そろそろ親しく感じてきた朝が始まったのである。

『〇〇くんの目玉焼きやっぱおいしい...』

「まぁ、朝食の大定番ですから、これくらい作れないと」

スカしつつドヤ顔で答える

『ふふっ』



『そういえばさ、私と〇〇くんってさ一緒に暮らし始めて1ヶ月くらい経つけどさ?』

「うん」

『1回も一緒に遊んだことないよね...?』

「た、たしかに...」

『毎日一緒に買い物してるから...あんまり考えたことなかったなぁ?』

「まぁ一緒に出かけてはいるもんね」

『あ、別に遊びに連れてってーとかそういうわけじゃないよ!』

『その...』

『〇〇くんと買い物行けるだけでも...楽しいし...』

これは非常にやばかった...、心臓のBPMがスピッツの曲くらいからマキシマムザホルモンの曲くらい変わった...、彼女は意外とあざといのでは無いかと思う今日この頃である。


「じゃあさ、次のおやすみ遊びに行こうか」

『え!ほんとに!』

「うん、ちょうど俺もバイトないし」

『迷惑じゃない...かな?』

「全然!俺も...遠藤さんと出かけるの楽しいしさ...」

『なんか照れるね笑...』

気まずい沈黙のあと、俺たちはその休日のスケジュールについて話し合った。

「それにしても何しようか?」

『うーん』

『〇〇くん、やりたいこととかない?』

「うーん...」

「あっ!俺さ、中学の頃の記憶が全くないからさ、学生っぽいことしてみたいかも...!」

『なるほどぉーいいねえ!』

「ボウリングとかー、カラオケとかー」

『ピクニックとかしたい!遠足みたいだし!』

「いいね!」

こうして俺たちは、バイトとパートまでの間休日の予定についての会話に花咲かせ、ついにその当日がやってきた。



「じゃ、行こっか?」

『うん!』

同棲生活をしているからか、お待たせ!待ったよね? いいや...今来たばっかだよ。みたいなくだりは出来ないのが心惜しいが、まぁ二人で同じドアから出かけるというのもなかなか乙なものである。

「あっ、ちょっと待ってね忘れ物...」

『うん』

「このネックレスつけるの忘れてた。」

『〇〇くんってそのネックレスずっと付けてるよね?』

「これね...一人暮らしする時親から貰ったんだけどさ、親が言うには昔から大事にしてたらしいから...」

『そうなんだ...』

「じゃあさ最初はカラオケから行きますか!」

『おぉー!』


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おかしい...カラオケもボウリングも決して苦手な訳ではなく、割と同世代の中では中の上くらいはあると自負はしていたが、遠藤さん恐ろしい子である。ボウリングのスコア、カラオケの点数対決、ボロ負けである。彼女は、俺の中であざとかわいいスペック高美女と称されることとなった。

『〇〇くん、見てこの写真...〇〇くんがストライク決めたとこ』

「撮ってたんだ笑...てか写真やっぱ上手いね?」

『そうかな?いっぱい撮ってきたからかも...?』

『あ、ついたよ公園!』

「お、ほんとだ」

『ピクニック楽しみだなぁ...』

実は、俺 彼女以上に楽しみにしている自負がある。なんと彼女の手料理が食べれるというのだ。普段の生活では彼女がかなり長くパートをしているため俺が料理を請け負っていた。そのため今日はいつものお礼だとかなんだとか言ってお弁当をこしらえてくれたのである。

『じゃああそこに座って食べよっか?』

「うん」

『はい、これ〇〇くんの分』

「ありがとう」

『緊張するなぁ...美味しくなかったらごめんね...』

「遠藤さんが一生懸命作ったんだからなんでもおいしいよ笑」

「じゃあいただきます!」


______________________

いや、マジで美味かった。こればっかりはもうマジで美味かったとしか言い様がない。マジ語彙なくなる美味さだった。こんな料理上手いなら普段から遠藤さんが作って欲しいもん...

「いや...料理上手すぎない...」

『えへへ...』

「ほんとに美味しかった....」

『なんか照れるな』

『喜んでくれてよかったです笑』

「ごちそうさまでした!ありがとう!」

『はーい』

『あ、〇〇くんあそこブランコある...乗ってきていい?』

「うん、いいよ」

『ありがとー』

そういうと彼女はブランコを器用に揺らしながら冬の空に浮かんでいった。

『私、ブランコ好きなんだよね』

『なんか、風と遊んでるみたいでさ笑』

「なにそれ笑」

『ふふ...』

たしかに、そう言われると彼女はまるで風と戯れているかのようだった。

「ねぇ遠藤さんカメラ貸して貰ってもいいかな?」

『うん、いいよ』

「はい、じゃあ撮るね笑」

『え...!いやいや私はいいよぉ』

「遠藤さんいつも自分のこと撮らないからさ」

『うーん...』

「ほらブランコ漕いで!」

『もぅ...はぁい』

パシャ


お世辞にも上手い写真ではなかったが、それは、間違いなく良い写真ではあった。


その時、突然遠藤さんがブランコを漕ぐのを辞めた。

「あれ?遠藤さんどした。」

「怒った...とか?」

いや、怒ったにしては変な感じである。ボーッと俺の方を見つめている。

『〇〇...?』

「うん...どした?」

少しの間沈黙が流れる。



『そろそろ行こっか!』

あれ?今の時間はなんだったんだろうか?あのぼーっとしてた時間は...、それに名前呼び捨てで...

『大丈夫?〇〇くん?』

「う、うん遠藤さんこそ大丈夫?さっきぼーっとしてたけど...」

『え、ほんと!?うーん、なんだろブランコ気持ちよすぎたのかな??』

「な、なるほど...」

まぁこれ以上は触れないでいいだろう。まぁ是非とも名前呼び捨ては継続して欲しかったが...


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『今日は楽しかったね..!』

「うん、マジで楽しかった。ありがとね」

『私の方こそありがとう...、また行こうね..!』

「おう」

「おやすみ」

『おやすみ〇〇くん』



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次の日の朝

起床、いやはや冬の朝というのはどうしたものか、体が布団の中から出ようとしない。まるで体に重りでもついているかのように...いや...重り...っていうか?ん?これ...遠藤さん!!

「うわぁぁ!!」

一体どういうことであろうか、遠藤さんが同じベッドで俺に抱きついているでは無いか!
昨日出かけたとは言ってもここまで仲を深めた気はしない!夢遊病なのか!?久々に来た夢遊病がこれか!

『んぅぅ?〇〇くん...?』

『なんで私〇〇くんと寝てるのぉ?』

「いや、多分夢遊病...?」

『ご、ごごごごめん!!!!』

「いや、大丈夫!!こっちこそごめん!」

『わ、私は大丈夫だよ...』

2人の間に沈黙が流れる...

『ねぇ、〇〇くんまだバイトまで時間あるしさ、このまま2度寝しない...?』

「え?」

『いや、、冬だし、寒いしさ...』

「う、うんだよね...っていやだよねじゃなくて」

『いやかな...?』

あーっ...、2度寝するか...

「寝よっか...このまま...」

『ありがとう...笑』

彼女は俺に抱きつくと再び目を閉じた。

「おやすみ、さくら」


ん?俺いま、さりげなく呼び捨てしてないか?これじゃあ、なんか関係をめっちゃ深めようとしてる男みたいじゃない???大丈夫か?


「ふふっ...おやすみ...〇〇...」



彼女の寝息と、俺の安堵のため息が出たタイミングは同時だった。

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