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おじいさんの割り箸[ショートショート]

「#物語の発想法を学ぶ」noteイベントのお題より
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介護ヘルパーの私が週1回家にお手伝いに行くおじいさんは、90歳を過ぎても元気に溢れている。自転車で街に買い物に行くし、井戸水を浴びて体を洗って日光浴したり、見ているこちらもヒヤヒヤするくらいだ。

でも年には勝てず、歯がボロボロで硬いものが食べにくいようだ。いつも柔らかく炊いたご飯と煮物や味噌汁を作ってあげるのだが、今日はめずらしくステーキを食べたいと言ってきた。

「おじいちゃん、そんなものは食べられないでしょう」とたしなめても、「フッフッフ、オレには秘密兵器があるんだよ」と、まるでワニの歯が並んだような割れ目がギザギザの割り箸を取り出した。

「喉につまらせたりしないから、安心してステーキを焼いてくれ!」おじいさんがそうごねるので、仕方なく肩ロース肉を買ってきて焼いてあげた。

おじいさんはどうするのか、のどにつまらせるんじゃないか、とビクビクしながら観察すると、、、不思議なことに、おじいさんが取り出した割り箸は根本がつながったままガチガチと勝手に開閉しだした。これは、見た目じゃなくて動きもワニじゃないか! 

おじいさんの手元で開閉する箸が、ギザギザの歯でステーキを端から細かく砕いていき、すべて粉々にしたところで止まった。それから得意げな顔で細かくなった肉を食べだした。「うん、やっぱりこれなんだよ! 煮物ばっかりじゃ飽きるんだよ!」嬉しそうに笑ってこっちを見てきた。

最近はこんな箸があるものなのか。私はおじいさんが喉をつまらせなかったことに安心しつつ、どうもステーキが砕かれる途中で2割ほど減ってるように見えたのが気になって仕方なかった。




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