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ライフサイクルの視点から読む人生後半の昔話~「笠地蔵」アニミズムの再生

あけましておめでとうございます。

新しい年の始まり、今年の初noteは、「笠地蔵」のお話で始めたいと思います。

「笠地蔵」は誰もが子どもの頃どこかで触れたことのあるなじみ深い昔話かと思います。
気持ちがほっこりと温まるこのお話は私が大好きな昔話のひとつでもあり、以前、このお話をモチーフに貼り絵を作ったこともありました(冒頭の画像)。

「成熟のための心理童話」アラン・B.・チネン著(ユング派分析家)
にこのお話が取り上げられています。短いお話ながら、人のライフサイクルとそれに伴う「心の成熟」とは、どんなことなのかについて深く考えさせられる点がいくつか述べられているので、私自身が汲み取った大切なポイントを書いてみたいと思います。

あらすじ
昔々、親切なおじいさんとおばあさんが住んでいました。とても貧乏でもうすぐお正月だというのに餅を買うお金もありませんでした。

おじいさんは餅を買うお金を得ようと、自分が編んだ編み笠を大晦日に町に売りにいきました。雪の中を一日中歩き回りましたが、とうとうひとつも売れず、沈んだ気分で家路につきました。

途中で6体のお地蔵さんが寒そうに雪の中に立っているのを目にしたおじいさんは、足を止め、お地蔵さんひとつひとつに声をかけながら、雪を払い、編み笠を被せ、丁寧に紐を結んでやりました。

帰ってきたおじいさんは、餅を買えなかったとおばあさんに話しました。おばあさんはため息をついたものの、お地蔵さんに笠を被せた話を聞くとにっこりして言いました。「きっとお地蔵さんたちはとても喜んだことでしょう!」
そしてふたりはその晩、粗末な食事を済ませ床につきました。

真夜中に家の外で音がするので、ふたりは目を覚ましました。「いったい誰なんだろう?」そのとき、小屋の戸が開いて、袋がドサッと落とされました。袋の中にはつきたての甘い香りの餅がたくさん入っていました。外を覗くと、笠を被った6体のお地蔵さんたちがお辞儀をして新年の挨拶をしていたのでした。

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このお話の真髄は「アニミズムの再生」
アニミズムとは、人間のみならず、動植物、無生物、すべてに心や魂が宿っているという考
え方で、小さい子どもに特徴的にみられるものです。幼い子どもが、ぬいぐるみや身近な物に対して、あたかも心があるかのように扱ったり、話しかけたりするのを目にしたり、自分の子ども時代に同様の経験をしたことを覚えている人も多いことでしょう。

成長とともに、物質的、科学的、合理的な見方が強まり、アニミズムの感覚は薄くなってい
きます。現実を生きることに忙しい青年期、壮年期の時代にはアニミズムの感覚はほとんど忘れ去られてしまいます。

しかし高齢になると再びアニミズム的感覚が戻ってくると言われています。高齢の人々のアニミズムは知的能力の後退や、論理的能力の喪失と解釈されがちだったのですが、実はアニミズムの成熟した形ではないかと近年言われるようになりました。

オーストリアの哲学者、マルティン・ブーバーが述べている「あなた態度」(私ーあなた)が、まさにそれにあたるのではないかということです。

普通、身近な大切な人たちに対してもつ尊敬と愛情と繊細さのこもった態度が、人に留まらず、もっと広く、自然をはじめとしたさまざまなものにも向けられる、ブーバーはそれを「あなた態度」と言います。

自分の周囲に存在するあらゆるものに対して、かけがえのない存在として扱うことは、心の状態が周りと調和し平和である状態であるからこそ生まれるものでもあり、さまざまな辛苦を経験し、乗り越え、寛容さが培われた成熟した心に再生されたアニミズムの形であるという考えに深く納得します。

一方で「それ態度」は対象をありふれた物、利用する物的存在としてみている態度を指します。対象がたとえ人であっても、尊重することや愛情を持つ対象としてみるどころか、あたかも心のない物としてしか感知しない態度を指します。「それ態度」は心の状態としては、周囲に対して敵対的といえます。

「笠地蔵」のおじいさんは、まさに「あなた態度」でお地蔵さんに接していたのであり、そのおじいさんの行為を肯定するおばあさんもやはり「あなた態度」の人であることがわかります。

おそらく、このお話のおじいさんとおばあさんは地に足をつけて、現実に根差した暮らしを誠実に営んできたことでしょう。

餅を買うお金のために売ろうとしたけれど売れなかった笠、役に立たなかったそれらの笠を打ち捨てることなく、お地蔵さんのために使うという思いつきは、歳を重ねても失われることのなかった内なる子どもの無垢な心が解放され、柔軟で成熟した実用性と見事に合わさった結果と言えます。

真夜中にお地蔵さんたちがもたらした甘い香りのたくさんの餅は、この老夫婦の人生が貧しいながらも、心豊かで平安に満たされていることの象徴と捉えることが出来そうですね。

ストレスフルで余裕がなくなっている今の世の中、物に限らず、不要になればポイ捨てしたり、混んだ街中でぶつかっても謝りもしなかったり、店員さんを罵倒したり、まるで相手をものみたいに扱う「それ態度」に出会うことが多くなっているように感じます。日本人は他国に較べて幸福度が低いと言われていますが、このようなことも関係しているのではないでしょうか。

幸せに生きるとはどういうことなのか、日本に古くからあるこの「笠地蔵」のお話は、そのことを深く考えさせてくれます。そして高齢化社会を生きる現代の私たちの道しるべとなるお話だなあと改めて思います。

今年も亀の歩みながら、ゆっくりポツポツと投稿していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。


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